あなたは子どもの主観的ウェルビーイングを理解していますか?
子どもの主観的ウェルビーイングをもっと理解しようという、ユニセフによる提案です。Fig.1を見て驚いたのが、大人のウェルビーイングは、子どものウェルビーイングとあまり相関がなく、どうも構造が違うっぽい。
Understanding child subjective well-being:A call for more data, research and policymaking targeting children(子どもの主観的ウェルビーイングを理解する:子どもに焦点を当てたデータ、研究、政策立案の呼びかけ)全日本語訳です。
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ハイライト
私たちは子どもについて多くを知っています。私たちは子どもの健康状態を予測でき、教育を評価でき、栄養状態を見守ることができます。けれども、「あなたの人生についてどう感じてる? 」と子ども自身にシンプルに聞くことはありません。
私たちは、子ども自身にたずねる必要があります。子どもの感覚を理解し、子どもの優先事項に対応する政策を作ることは、彼/彼女がより良い人生をおくるための実用的な方法です。
では、どうすればよいでしょうか?
近年注目を集めている概念の一つが、「主観的ウェルビーイング」です。基本的には、自分の人生をどのように体験しているか、それがポジティブなものかネガティブなものかを表します。
現在、主観的ウェルビーイングの科学と測定は有用で実用的になりました。けれども、大人に適用されることが多いのに対し、子どもに適用されることが少ないのが現状です。これは本当にもったいないことです。子どもたちの主観的ウェルビーイングを深く理解することで、子どもの人生に影響を与える政策を定期的に作る、当たり前の世界を想像します。
この主観的ウェルビーイング入門編で詳しく説明し、子どものための「幸福、愛情、理解の雰囲気」を促進するための 3 ステップを提示します。
─ 子どもを対象としたデータ、研究、政策立案の充実を求める声 ─
新たな分野、概念、指標
「主観的ウェルビーイング」とは、ポジティブな感情(楽観など)、ネガティブな感情(悲しみなど)、仕事や人間関係などの特定の事柄に関連する満足度、そして生活満足度の総合的な判断です
30年以上前から、心理学者たちは個人がどのように生活の充実感や満足感を得ているか、より深く理解するよう呼びかけています。
従来の精神病理や精神障害に焦点を当てた研究から、幸福に関するさらなる研究の必要性が生まれ、ポジティブ心理学の分野が生まれ、主観的ウェルビーイングや生活満足などの概念が確立されました。
一方、経済や健康など他分野の専門家もウェルビーイングが人生の他の側面に与える影響を厳密に調査し始めています。
ここで3つの概念を区別しましょう。
- 「主観的ウェルビーイング」とは、ポジティブ感情(楽観など)、ネガティブ感情(悲しみなど)、特定領域(仕事や人間関係など)に関連する満足感、人生における全体的な生活満足感のことです。
- 「生活満足度」とは、主観的ウェルビーイングの1要素で、個人が長い時間軸の中で自分の人生をどのように捉えているかの一般的な評価です。
- 「幸福」とは、一貫した定義はないけれど、現在の状態や、ポジティブ感情を感じること(ネガティブ感情を感じないこと)を指します。なので、主観的ウェルビーイングや生活満足度よりも狭い概念です。
これらの話題に関する研究の増加は、以下の方法論や尺度の普及につながっています。
- 生活満足度に関して最もよく使われる尺度の1つである自己調整努力尺度は、カントリルのはしごとしても知られます。回答者に10段の梯子を考えさせ、最上段は想像できる最高の人生、最下段は最悪の人生を表しています。
カントリルの階梯 出典: 【石川善樹】僕が「Well-Being」の研究に人生をかける理由
この尺度は、被験者が梯子の上段と下段に自分で説明(例:最高─最低、良い─悪い、上─下)を定義する点がユニークです。この尺度は、ギャラップ社の世界調査(結果は『世界幸福度報告書』掲載)や、ユニセフの複数指標クラスター調査(MIC)で使用されています。
経済協力開発機構(OECD)による、15歳を対象とした国際学生能力調査(PISA)でも同様の尺度による評価が行われています。学校児童の健康行動調査(HBSC)には、この尺度を用いた質問が含まれておりヨーロッパと北アメリカの50の国と地域で4年ごとに行われ、11歳、13歳、15歳の生徒が対象になっています。
- 学生の生活満足度尺度(SLSS)は子どもを対象とした7項目の自己報告尺度です。SLSSはグローバルな生活満足度を測定するために、以下のような項目で設計されています。
仲間、家族、生活環境、自分自身など特定の生活領域に関係なく人生全体の生活の質を評価するために子どもたちに質問します。若い人々は各項目について
「強くそう思う」──「強くそう思わない」
まで5段階で回答するよう求められます。8歳の子どもから使用できます。
個人の幸福度指数(PWI)は、主観的ウェルビーイングの一般的尺度です。これは、人々が7つの生活領域にどの程度満足しているか尋ねます。
1. 生活水準
2. 個人の健康
3. 達成
4. 人間関係
5. 個人の安全性
6. 地域社会とのつながり
7. 将来の安全保障
この方法論は、ウェルビーイングの異なる側面を測定するものです。尺度は密接に相関し、結果は類似を示す傾向があります。いくつかの手法はすでに異文化間で検証され、グローバルに適用できます。
国による尺度の比較可能性に関する研究により、子どもを対象とした多項目の主観的ウェルビーイング尺度を作ることは可能です。それは優れた心理測定特性を持ち、性別や社会経済的要因によるウェルビーイングの違いを識別できるとされています。多項目尺度は、単一項目尺度より安定していると考えられています。カントリルの梯子のような単一項目尺度は、8歳の子どもたちにも使用されます。
子どもの主観的ウェルビーイングについて、私たちは何を知っているでしょうか?
大人や家族のウェルビーイングは、子どものウェルビーイングと強く相関していません
1 大人や家族の幸福度は子どもの幸福度と強い相関がありません。たとえば、下図1は2017年から2019年にかけて64ヶ国のデータから抽出された、大人と15歳の若者の平均生活満足度スコアを比較しています。両グループの生活満足度が高い国(コスタリカなど)もあれば、両グループの生活満足度が低い国(トルコなど)もあります。けれども、イギリス(UK)は大人の生活満足度が高く、思春期の生活満足度が低く、一方、アルバニアでは逆の傾向が見られます。
5 一般的には、生活水準の向上か、物質的困窮の解消で主観的ウェルビーイングが向上すると考えられますが、研究によれば因果関係は両方向に作用します。つまり、幸福感や充足感が、個人的、行動的、心理的、社会的な良い結果につながることもある、ということです。
いくつかの研究によれば、高い主観的ウェルビーイングは学業成績との相互関係を示すことがあります。また、ストレスの多い出来事と主観的ウェルビーイングの間に相互作用が示されています。ストレスの多い出来事のあと、主観的ウェルビーイングが低い子どもたちは以下のことを行うことが多いとされています。
- 身体的攻撃
- 言葉の暴力
- 人間関係の攻撃、抵抗
- 窃盗
- 破壊活動
主観的ウェルビーイングが高いことが、これらネガティブな行動を緩和する役割を果たす可能性があります。
政策決定における主観的幸福感
1970年代、ブータンは世界で初めて、単に所得増加によって発展を測るのでなく「幸福」を追求することを宣言しました。
2000年代には、国民総幸福量指数(GNHI)を導入しました。
現在は、国民総幸福量委員会が国内すべての政策がGNHIにどのように貢献するかを評価するテストに合格することを保証しています。また、委員会は具体的な提言も行っています。調整が必要です。
ブータンの例に触発され他のいくつかの国でも幸福、すなわち「幸福度」がどのように変化するかを研究しています。ウェルビーイングの主観的尺度は、政策立案に貢献することができます。イギリス、イスラエル、タイでは幸福度や生活満足度を国単位で測定しています。
コロンビア、エクアドル、パラグアイ、スロベニアなどの国々がOECD は「ベターライフ・インデックス」を通じて先進 38ヶ国のウェルビーイングの枠組みと指標を構築しています。OECDは、より良い人生指数を通じて先進38ヶ国のウェルビーイングを測るフレームワークを開発しました。
いくつかの国や都市では、幸福度や主観的ウェルビーイングの尺度が政策立案にどのように貢献できるかを調査しています。大人だけに焦点を当てたものもあれば、子どもたちを取り込む良い例を示しているものもあります
世界のいくつかの都市では、日々の幸福度を測定・追跡する「スマート」なアプローチを開発しています。スマート・ドバイ・オフィスは2018年に「スマート・ハピネス・インデックス」を発表し、費やした資金当たりの幸福度獲得に基づいて都市管理者の行動の質を評価することを約束しました。
これらの取り組みの中には大人の幸福度を測ることに焦点を当てたものもありますが、子どもを取り込んだ良い例もあります。
経済協力開発機構(OECD)の子どもの福祉ポータルは、子どもに関する政策指向の研究のためのプラットフォームを提供しました。主観的な幸福の指標や分析も含まれています。英国では、過去7年間、特に子どもを対象とした客観的・主観的な幸福度指標と、若者(16~24歳)を対象とした指標を見守っています。
学生生活満足度ランキングで常に下位にある韓国は、学生のウェルビーイングを高めるために、1学期は試験がなく、子どもたちが「自分の夢と適性」を追求できるようにするなどの施策を導入しました。
子どもたちの世界大会に参加して、この指標は主観的ウェルビーイング指標だけでなく客観的ウェルビーイング指標も統合することで政策立案の指針となりうるものです。ユニセフ・ブータンの子どもに対するビジョンは、政府を支援し、幸福と幸福確保を目標として掲げています。
これらの取り組みが社会の進歩に寄与しているかどうかは、まだ判断がつきません。たとえば、ブータンは生活満足度の世界ランキングで上位に食い込んでいません。
けれども、政策立案における主観的ウェルビーイング尺度の価値は他の尺度を置き換えたり無視したりすることにあるのではない、というのが専門家の一致した意見です。むしろ、幸福度測定のユニークな政策的価値は子どもや青年を含む個人が尊厳ある満足な人生を送るために、どのような要素を価値あるものと考えているか明らかにすることです。
幸福の要因に光を当てることは、仲間とのつながり、身体的活動、精神性など他の方法では注目されない要素をより包括的に捉え、これらの要素を統合するよう政策を適応させることです。
ユニセフはこの分野でどのような活動をしてきたのでしょうか?
多重指標クラスター調査:
多重指標クラスター調査の第4波以降、ユニセフは生活満足度に関するモジュー ルを組み込んでいます。クラスター調査4とクラスター調査5では幸福感に関する一般的な質問に加え、異なる生活領域に対する満足度を評価する項目が統合されました。
今回のクラスター調査6では、さらに質問を細分化しカントリルラダー、および一般的なウェルビーイングについて5段階(「とても幸せ」~「とても不幸せ」)で尋ねる質問と、人生の改善・悪化に関する将来と過去の認識について尋ねる2つの質問があります。このアンケートは、15歳からの子どもから大人まで約60ヶ国で使用されています。
子どもの世界調査:
子どもの世界調査は、政策立案者に子どもの生活を向上させ、子ども時代の改善に向けた行動を伝えることを目的とした、子どもの主観的ウェルビーイングに関する世界的な調査研究です。この調査は、世界40ヶ国で実施されている国際的、異文化的、多言語的な調査であり、子どものウェルビーイングを調査しています。参加各国は、少なくとも1,000人の代表サンプルを調査しています。
プロジェクトは、8歳、10歳、12歳の3つの学年の子どもたちに対しカントリル・ラダーの他、さまざまな生活領域(学校、家族、人間関係、物質的幸福、自己認識など)に関する同意、頻度、認識を測定するいくつかの質問を用いています。
ユニセフ・インドネシアは西ジャワ州の2万5,000人の子どもたちを対象に、調査実施を支援しました。調査の結果、国からの強い支持もあり、政府はウェルビーイングの主観的尺度だけでなく客観的尺度を統合した「子どもの幸福度指標」の作成を検討しています。
イノチェンティ・レポートカードシリーズ:
この年次報告書は、子どもたちの幸福度を分析しランク付けしています。高所得国でのレポートカード7、11、13、16は、いずれも国際学生評価プログラムや学校における児童・生徒の健康行動調査などの国際調査から抽出した単項目による子どもの生活満足度の指標を提示しています。
アジェンダを進める
子どもたちが自身の幸福についてどのように感じているか見守り、測定に対応した政策を作ることは、子どもたちの繁栄の願いを実現する実用的アプローチとなります
子どもの権利条約は、前文で「子どもたちは、幸福、愛情、理解のある雰囲気の中で育つべきである」と述べています。このことは、条約に定めた「規範的権利が満たされた生活」以上のものを子どもたちが享受することを条約草案者が期待していることを示唆します。
子どもたちが感じるウェルビーイングを見守り、それに対応した政策を作ることは子どもたちの繁栄の願いを実現する実用的アプローチとなるのです。主観的ウェルビーイングの科学と測定は、初めてこれを実現するに十分に成熟しています。ユニセフは、このアジェンダをさらに進めるために以下の手順を提案します。
データ
データ面で子どものウェルビーイングに関する測定の収集を促進し、子どもが自分の生活についてどう感じているか、どの要素が子どもの幸福にとってより重要であるかの結果に注目することが重要です。
平均的な生活満足度の国際比較は慎重に行わなければなりませんが、生活満足度の測定は、子どもが自分の生活についてどのように感じるか、またこれらの要因が国によってどの程度異なるかについて、たくさんの重要な示唆を与えます。
「世界の子どもの幸福度調査」の対象国リストを拡大し、可能であれば簡素化されたアンケートを使用することで、問題をさらに探ることができる選択肢があるかもしれません。インドネシアの「子どもの幸福指数」を使用したアプローチと同様に、質問票を客観的ウェルビーイングの測定と組み合わせ、両者の測定間の関連性やギャップを明らかします。
主観的ウェルビーイングの分野において、子どもの関心や意見を考慮した政策立案の改善はとても重要です
研究内容
研究においては、生活満足度が他の望ましい社会的成果達成にどのように影響するか、また客観的ウェルビーイング測定と主観的ウェルビーイング測定の関連性をより理解するための縦断的および質的研究を支援します。
さらに、この分野の研究が豊富で、多くの問題(所得と生活満足度の関係など)で知見が分かれていることから既存文献を徹底的に統合し、その知見をより広く応用することは価値があると思われます。
方針
政策においては、子どもの幸福度を測定し考慮する取り組みから子どもを排除しないように、子どもの利益や見解を考慮した政策立案の改善が必要です。主観的ウェルビーイングの分野の総合的な目標である「子どもの関心や意見を考慮した政策改善」が優先されるべきです。
これに加えて、子どもの主観的ウェルビーイングの測定値が、機関的なツールやプロセスにどのように組み込まれるかを示す追加の事例研究が必要であり、これらの測定値によって最も有益に影響を受けそうな政策領域について、より分析される必要があります。
記事について
※この記事は、ユニセフの英文PDFを日本語訳し紹介したものです。
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記事は作業用文書で、知識の交換と議論を活性化するために作成されました。本文は公式に編集されておらず、誤りに対して一切の責任を負いません。本書の記述は著者の見解であり、必ずしもユニセフの政策や見解を反映するものではありません。名称や領域区分は、国または地域の法的地位、または国境の区画について見解を示すものではありません。
ユニセフは世界で最も困難な場所で最も不利な立場にある子どもたちに手を差し伸べるため、そして世界中のすべての子どもたちの権利を守るために活動しています。190の国と地域で幼児期から青年期まで子どもたちが生き延び、成長し、その可能性を発揮できるように必要なことは何でもしています。私たちは決してあきらめません。
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フォトクレジット: 1(表紙)©UNICEF/UNI242707/Mawa │ 2,3,8,9©Wadi Lissa │ 4©UNICEF/UN0148747/Volpe │ 5©UNICEF/UNI280291/Dejongh │ 6©UNICEF/UNI297230/Schermbrucker │ 7©UNICEF/UN028665 │ 10©UNICEF/UN0469271/Dejongh
執筆者:Laurence Chandy、Amanda Marlin、Camila Teixeira
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