2024-08-15

地域の幸福を測る:ウェルビーイング指標で見る自治体政策の未来

本記事は、『ウェルビーイング指標に基づく自治体政策に関する調査研究 令和6年3月 一般財団法人 地方自治研究機構(158頁)』をもとに、一般の読者にもわかりやすくまとめたものです。詳しく知りたい方は、こちらのPDFリンクをご覧ください。

この調査研究は、日本全国の自治体がどのように見直し、地域のウェルビーイング(幸福)を向上させるための指標を確立するかを目的としています。具体的には、自治体の政策が市民の生活の質をどのように向上させるかを評価し、『課題解決』や『居場所・舞台』といった概念を通じて、地域コミュニティの持続可能な発展を目指しています。本記事では、各章ごとの要点を整理し、専門用語をわかりやすく解説することで、読者が研究の内容とその意義を理解しやすくしています。

キーワードの定義と説明

・ウェルビーイング: 個人や社会が身体的、精神的、社会的に良好な状態であり、幸福や満足感を感じられることを指します。この概念は、健康や生活の質を広く捉え、人々が豊かで意味のある生活を送るために必要な要素を包括的に考えるものです。

・課題解決: コミュニティや個々人が直面する問題や困難を特定し、それを解決するための対策を講じることを指します。具体的には、交通、教育、医療、福祉など、多岐にわたる分野での問題解決を含みます。自治体はこれらの問題に対処することで、住民の生活の質を向上させることを目指しています。

・居場所と舞台: 居場所とは、人々が安心して過ごし、所属感や連帯感を感じられる場所やコミュニティを指します。地域の集会所や公園、学校、職場などが具体的な例です。一方、舞台は、個人が自分を表現したり、社会に貢献するための場を指します。地域イベント、ボランティア活動、趣味のグループなどがこれに該当します。


あなたの住む街ではどのようなウェルビーイング施策が行われているでしょうか?

目次

はじめに

経済成長が人々の幸福を必ずしももたらさないことが明らかになる中で、GDPに代わる新たな指標として『ウェルビーイング』が注目されています。WHOが提唱するウェルビーイングは、身体的、精神的、社会的に充実した状態を意味し、持続的な幸福感を追求するものです。日本でも2011年に『幸福度指標試案』が作成され、2019年には政府の政策として『ウェルビーイング指標』の活用が推進されました。地方自治体は、住民の福祉向上を使命としており、ウェルビーイングの向上はその重要な課題となっています。本調査研究では、専門家や自治体の事例を通じて、ウェルビーイング指標を活用した政策の展開について検討しました。

幸福度指標: 経済的な指標だけではなく、人々の主観的な幸福感や生活満足度を測定するための指標。個人や社会全体のウェルビーイングを総合的に評価し、政策の効果を確認するために用いられる。

序章

政府は、過去の調査から生活満足度が経済成長と必ずしも一致しないことを確認し、GDPでは測れない幸福度や満足度を評価する新たな指標の研究を進めています。2011年には『幸福度指標試案』が策定され、2017年以降、地方自治体でもウェルビーイング指標の導入が活発化しています。

本調査研究では、5回の研究会を通じて、専門家がウェルビーイング指標の定義や政策デザインについて報告しました。この報告書は全7章で構成され、自治体の具体的施策事例や政策評価の方法論を詳述しています。

第1章 ウェルビーイング政策の潮流とこれからの論点

ウェルビーイング政策って何でしょう?一緒にその潮流と今後の課題を探ってみましょう!

要約

本章では、国内外のウェルビーイング政策の潮流と今後の課題を明らかにします。まず、ウェルビーイング政策の原点であるブータン王国のGNH(Gross National Happiness)を紹介し、それが世界的な政策にどのように影響を与え、日本国内でもどのように反映されているかを探ります。

はじめに

本章では、ブータン王国のGNHを起点に、国内外のウェルビーイング政策の進展を探り、日本の自治体が直面する課題と今後の可能性を考察します。読者は、ウェルビーイング政策の成り立ちとその発展過程を理解し、これからの政策形成に必要な視点を得ることができるでしょう。

1. ブータン王国におけるウェルビーイング政策の起源と位置づけ

1970年代に第4代国王が「GNPよりもGNHが重要」と発言したことから、GNHが国是となりました。ブータンはGNH指標を使って国民のウェルビーイングを9つの領域と33の指標で測定し、政策に反映しています。これにより、主観的指標と客観的指標を組み合わせた国民の幸福の全体像を把握しています。

図表1-1: ブータン王国の地理的位置
ブータン王国は南アジアに位置し、中国とインドに挟まれた小さな内陸国です。この地理的特性は、その文化と政策に影響を与えています。

2. ウェルビーイング政策の世界と日本の潮流


国際潮流: ウェルビーイング政策はブータンを起源とし、2009年のスティグリッツ委員会報告や2011年のOECD「より良い暮らしイニシアチブ」などを通じて広がりました。2015年のSDGs採択では、ウェルビーイングが重要な目標の一つとして位置づけられました。

国内潮流: 日本では、1974年からウェルビーイングに関連する指標が検討されてきました。骨太の方針2021や2023年の地方自治体へのウェルビーイング指標の活用強調など、政策としての位置づけが明確化されています。

図表1-2: GNH指標の9領域の体系
GNHは、心理的幸福、健康、時間の使い方、教育、文化の多様性と回復力、ガバナンスの質、地域コミュニティの活力、
環境の多様性と回復力、生活水準の9つの領域にわたる指標から構成されています。


図表1-3: GNH指標の9領域33指標の具体的内容
各領域は、具体的な指標に基づいて評価されます。これには、生活満足度や精神的健康、教育水準などの具体的な項目が含まれます。

3. ウェルビーイング政策のこれからの論点

論点1: ウェルビーイング政策の定義と目指す方向性

地方自治法に基づき、住民の福祉の増進を目的とする政策がウェルビーイング政策と定義されます。特に孤独・孤立の予防や人々のつながりを強化することが重要です。

論点2: 公共政策としての政策デザイン

地方自治体が独自のウェルビーイング指標を策定し、地域の実情に合わせた政策を展開することが求められます。総合的な主観的ウェルビーイングのインパクトを中長期的に評価する必要があります。

論点3: 具体的かつ象徴的な政策・アクション

具体的な政策実行のための象徴的な取り組みとして、居場所づくりや文化芸術活動の推進などが提案されています。

図表1-6: ウェルビーイング政策のこれからの論点と課題点
今後のウェルビーイング政策において考慮すべき主要な論点と課題点が列挙されています。これには、政策の定義や方向性、デザイン、実際の実施における具体的なアクションなどが含まれます。

図表1-8: ウェルビーイング政策の簡易なロジックモデルの考え方
この図はウェルビーイング政策のインプット(入力)、アウトプット(出力)、アウトカム(成果)、インパクト(影響)の流れを示します。たとえば、「まちづくり」や「文化芸術」、「仕事」などの分野において、どのようなインプットがどのようなアウトカムをもたらし、最終的にウェルビーイングにどのような影響を与えるかを簡潔に示しています。

おわりに

本章では、ウェルビーイング政策の原点であるブータン王国から始まり、その国際的潮流と日本国内への影響を検証しました。さらに、地方自治体がこれから直面する課題と解決策についても触れました。これにより、自治体が住民のウェルビーイング向上に向けた具体的な施策をどのように進めるべきか、その指針を示しました。

第2章 住民幸福度を測る指標の実際と課題: 荒川区のGAH指標を例に

あなたの住む街では、幸福度をどう測っているか知っていますか?

要約

この章では、日本の自治体におけるWell-being指標の開発と活用に関する現状と課題について考察します。特に荒川区の事例を通じて、指標がどのように政策立案に影響を与えているのか、その実際と今後の展望について探求します。Well-being指標の特性は、政策立案への直接的な適用を困難にしているものの、EBPM(Evidence Based Policy Making。データや科学的根拠に基づいて政策を立案・評価する手法のこと)の手法や象徴的な政策の提示、ステークホルダーとの協働を通じて、その有効活用が期待されています。

はじめに

日本では、経済指標だけでは測れない住民の幸福度を評価するため、Well-being指標の導入が進んでいます。特に2010年代前半には、多くの自治体がこうした指標の作成に取り組みましたが、近年ではその開発と活用が停滞している状況にあります。本章では、荒川区を事例に、Well-being指標の政策立案への活用方法とその課題について探ります。

1. 自治体の Well-being 指標作成の背景と動向

日本では、経済指標だけでは測れない住民の幸福度を評価するため、Well-being指標の導入が進んでいます。特に2010年代前半には、多くの自治体がこうした指標の作成に取り組みました。けれども、現在では新たな指標の開発や活用が停滞している状況があります。この背景には、主観的な幸福感を正確に測定する難しさや、その結果を具体的な政策に反映させる困難さが存在します。

2. Well-being 指標の政策の改善・立案への活用に関する課題

Well-being指標は、住民の主観的な感情や幸福感を測定するため、その抽象性が政策の具体的な適用を困難にしています。また、幸福感の変動性や意図的な操作の可能性があるため、政策立案において信頼性の課題も生じます。これに対して、主観指標と客観指標を組み合わせることで、より包括的な課題把握が可能となり、政策評価や改善に寄与する可能性があります。

3. 荒川区の Well-being 指標の政策活用事例

荒川区では、荒川区民総幸福度(GAH)という指標を用いて、政策の改善に積極的に取り組んでいます。

GAHは、幸福実感度をはじめとする多岐にわたる指標から構成されており、区民の幸福感を多角的に把握しています。具体的な施策としては、防災対策や交通安全対策が挙げられ、これらは住民アンケートを基に策定されています。



図表2-6や2-7のデータは、重要度と実感度のギャップを明示し、優先的に改善すべき分野を特定するための基盤となっています。

図表2-1: 荒川区民総幸福度(GAH)指標の全体イメージ
GAH指標の全体構造を視覚的に示し、各指標間の関係を理解するための基本資料。

図表2-2: 荒川区民層幸福度指標の体系
幸福実感度と各分野の指標の関連性を示し、具体的な分析のための基礎データ。

4. Well-being 指標の政策活用の展望

荒川区の事例を通じて、Well-being指標をEBPMと連動させ、政策の方向性を明確にすることが効果的であると示唆されています。具体的には、主観指標を用いて住民の課題を大まかに把握し、それに基づいて詳細なデータ分析を行うことで、政策の改善・立案に活かす方法が考えられます。

また、象徴的な政策の提示やステークホルダーとの協働による課題解決が特に重要であるとされています。

図表2-6: 重要度と実感度の関係図
住民が重視するが改善が必要な領域を特定するためのデータ。

図表2-7: 安全・安心分野における重要度・実感度の分布
具体的な施策の対象分野を特定するための資料。

図表2-10: 各分野上位指標の実感度の回答割合
住民の幸福実感に対する分野別の状況を把握するためのデータ。

おわりに

本章では、荒川区のGAHを通じてWell-being指標の政策活用の現状と課題を分析しました。指標の政策活用が難しい一方で、主観的な意識を政策に反映する意義は大きく、今後の展望としてEBPMの手法や象徴的政策、ステークホルダーとの協働が重要であると結論付けています。特に、ステークホルダーの協働による課題解決が今後の鍵となり、各自治体でのさらなる取り組みが期待されます。

第3章: 自治体における Well-being 政策の意義と展望 ~岩手県の取組を事例に

みなさんの住む街でも、幸福度を高める取り組みが進んでいるか、知っていますか?

要約

本章では、岩手県のWell-being政策を通じて、自治体レベルでの幸福度向上を目指す政策の意義と課題について考察します。特に、「政策形成過程」「評価過程」「県民との共有過程」の三つの過程を通じて、政策の具体化や住民の幸福向上に向けた取り組みを詳述します。また、Well-being政策を「主観と客観」「個人と社会全体」「プロセス志向型と政策志向型」の観点から整理し、これらの概念の共存の可能性について検討します。

はじめに

近年、政策立案においてWell-being指標が注目を集めています。

図表3-1 日本のWell-beingと一人当たり実質GDPの関係
日本における経済成長と幸福度の関係
図表は、1978年から2011年までの日本の一人当たり実質GDPと幸福度、生活満足度の関係を示しています。経済成長が必ずしも幸福度の向上につながらない「イースターリンパラドクス」の存在を示唆しています。

2017年の「骨太の方針」では初めてWell-being指標が言及され、その後も継続して注目されています。特に自治体レベルでの政策形成と評価において、Well-being指標の具体化と活用が求められています。本章では、岩手県のWell-being政策の具体的な取り組みを紹介し、その意義と今後の課題について考察します。

1. 自治体政策とWell-being

Well-being政策の注目背景には、所得が増加しても幸福度が上昇しない「イースターリンパラドクス」や、幸福に関する学術研究の進展があります。

図表3-2 Subjective Well-beingに関する論文出版数:
主観的Well-beingに関する学術研究の増加
1999年から2016年までの主観的Well-beingに関する論文の出版数の推移を示しています。近年のWell-being研究の活発化とその重要性の増大を視覚的に表現しています。

また、日本国憲法第13条や地方自治法第1条の2に基づく政策の正当性が強調され、自治体が住民のWell-being向上に努めるべき根拠として挙げられます。

専門用語の解説
・イースターリンパラドクスとは: 経済成長が進んでも幸福度が上昇しない現象を指します。経済成長が進んでも幸福度が上昇しない現象です。これを背景に、自治体は経済指標だけでなく、住民の幸福感を測るWell-being指標に注目しています。日本国憲法第13条や地方自治法第1条の2では、自治体が住民の幸福向上に努める義務が明確にされています。

2. 岩手県のWell-being政策

(1) 背景: 岩手県は「幸福」をキーワードに、2019年に「いわて県民計画」を策定し、県民の幸福度向上を目指しています。この計画は、震災からの復興を経て、県民がより良い生活を送るための基盤を築くことを目的としています。

(2) 政策形成過程: 岩手県は県民意識調査をもとに幸福度指標を策定し、その結果を政策に反映しています。

図表3-5 「岩手の幸福に関する指標」研究会が示した幸福度指標体系(Well-being 指標体系)
岩手県で採用されている主観的および客観的指標の詳細
住民の幸福度を多面的に評価するために設計されており、政策形成に役立てられています。

具体例として、地域医療の改善や自然環境の保護など、具体的な政策展開が行われています。これにより、住民のニーズを的確に捉えた政策が形成され、他地域にも適用可能なモデルとなっています。

(3) 政策評価過程: Well-being指標を用いた政策評価を行い、政策の効果を客観的に測定しています。

図表3-6 岩手県の政策体系とその評価:
岩手県の政策評価システム
政策分野、政策項目、推進方策の三層からなる岩手県の政策体系を示しています。Well-being指標が政策評価にどのように組み込まれているかを示しています。

また、主観的Well-beingの把握のため、パネル調査や外部有識者組織の設置など、多角的なアプローチを採用しています。これにより、政策の効果と住民の幸福感の関係性が明確化され、改善策が提案されています。

(4) 県民との共有過程: 岩手県は「いわて幸福白書」の発行やワークショップの開催を通じて、県民と政策情報を共有しています。これにより、政策への理解を深め、住民参加を促進しています。具体例として、ワークショップでは住民が幸福感を自己評価する「幸福カルテ」を作成し、政策提案の一環として活用しています。

3. 今後の展望

図表3-3 幸福とHappiness、Well-beingの関係性:
幸福、Happiness、Well-beingの概念の違い
幸福という概念が一時的な感情(Happiness)と持続的な状態(Well-being)に分かれることを示しています。感情的な幸福感とエウダイモニア的幸福感の違いを理解するための参考資料です。

(1) 主観的Well-beingと客観的Well-beingの位置づけ: 政策の目標設定には客観的Well-beingが重要である一方、主観的Well-beingも無視できません。主観的Well-beingは、個々人が感じる「生活の満足度」や「幸福感」といった感情的な側面を測るもので、アンケート調査などを通じて個人の主観的評価を収集します。これに対して、客観的Well-beingは、収入、教育水準、健康状態などの客観的なデータをもとに評価され、社会全体の状況を定量的に把握するための指標です。たとえば、所得や教育達成度、失業率、医療アクセスの質などは客観的な指標に該当します。政策評価においては、これら主観的および客観的指標の両方を考慮することが、包括的なWell-beingの向上を目指すためには不可欠です。

図表3-7 自治体政策と客観的、主観的Well-beingの関係性:
自治体政策がWell-beingに与える影響
自治体の施策が健康や余暇といった客観的Well-beingの側面を通じて、どのように住民の主観的Well-beingに影響を与えるかを視覚的に示しています。施策の結果がWell-beingに及ぼす影響を理解するためのガイドラインとなります。

(2) プロセス志向型と政策志向型の共存: Well-being政策には、プロセス重視の「プロセス志向型(地域地域コミュニティのイベントやワークショップの開催など)」と具体的政策重視の「政策志向型(健康寿命の延長を目指した医療サービスの充実など)」があります。

図表3-4 Well-beingの構造と公共政策の関係性:
個人、コミュニティ、生命/身体の三層からなるWell-beingの構造
公共政策がこれらの各層にどのように影響を与えるかを示し、政策の焦点を理解するための指針を提供しています。

岩手県の事例では、両者が共存し、住民の幸福度向上に寄与しています。たとえば、住民の「居場所」と「役割」を強調する施策が効果を上げています。

おわりに

Well-being政策の推進には、EBPM(Evidence Based Policy Making)や学術界との連携が重要です。けれども、業務負担の増加が懸念されるため、政策推進においては職員のWell-beingにも配慮する必要があります。今後は、政策の実効性を高めるためのエビデンス収集や分析が求められます。

専門用語の解説
・EBPM: データや科学的根拠に基づいて政策を立案・評価する手法のことです。
・主観的Well-being: 人々が自分自身の生活や体験に対して感じる幸福感や満足感のことを指します。これはアンケート調査などで主観的に評価されるものであり、たとえば「生活の満足度」や「幸福感の度合い」などの質問に対する回答から得られます。

第4章: 富山県のウェルビーイング施策の展開

ウェルビーイングで地域をもっと豊かにできるって、知っていますか?富山県の挑戦を見てみましょう!

要約

本章では、富山県が2022年に策定した「幸せ人口1000万 ~ウェルビーイング先進地域、富山~」を目指す成長戦略を紹介します。富山県はウェルビーイングを「肉体的・精神的・社会的に満たされた状態」と定義し、独自の「富山県ウェルビーイング指標」を設けました。この指標は「分野別」「つながり」「総合」の3つの柱から成り、政策設計に反映されています。今後の課題としては、ビジョン共有の継続、既存の評価システムとの調整、主観的指標のさらなる分析と検証が挙げられます。

主観的指標とは、住民自身の感覚や認識に基づく評価であり、幸福感や生活満足度を測るものです。
一方、客観的指標は、収入や健康状態などのデータに基づいて評価されます。


はじめに

富山県は、地域の豊かさを支える自然環境や産業の発展とともに、住民の幸福度向上を目指す政策を展開してきました。地方自治法第1条の2に基づく「住民の福祉の増進」を基本とした地域行政の役割は、ただ物質的な豊かさを追求するだけでなく、精神的・社会的にも満たされた生活を支えることにあります。本章では、富山県が掲げた「幸せ人口1000万 ~ウェルビーイング先進地域、富山~」というビジョンのもとで進められている具体的な施策や、その成果と課題について詳述します。

図表4-1 富山県成長戦略のビジョンと基本的考え方
この図は、富山県がウェルビーイングを基盤とした成長戦略を掲げ、その主要な柱を視覚的に表現しています。

1. ウェルビーイング推進に至る経緯

富山県の特徴

富山県は日本海側に位置し、交通の便が良く、立山黒部アルペンルートや富山湾の美しい景観などの豊かな自然環境に恵まれています。また、化学や機械産業が発展し、医薬品生産でも全国上位を誇ります。これにより、県民の生活の豊かさが支えられており、全国的にも高い幸福度が見られます。けれども、少子化や人口減少が進行しており、特に若年層や女性の流出が課題となっています。

富山の歴史と文化

富山県は、長い歴史と豊かな文化を持つ地域です。特に伝統工芸である高岡銅器や富山ガラス工芸品などが知られており、これらの伝統工芸品は地域の文化的遺産を表しています。また、富山の歴史は日本海交易により繁栄し、地域の文化や産業の発展に寄与しました。

成長戦略の策定

新田八朗知事は「県民が主役の富山県」を掲げ、2021年に成長戦略会議を設置しました。翌年には「幸せ人口1000万 ~ウェルビーイング先進地域、富山~」というビジョンを発表し、ウェルビーイングを基盤とした政策の推進を開始しました。この成長戦略は、地域の強みを活かしながら、全体的な生活の質を向上させることを目的としています。

図表4-3 富山県ウェルビーイング指標の体系
つながり指標、総合指標、分野別指標の3つの柱から構成され、住民の幸福度を多面的に評価します。

図表4-2-1 ウェルビーイングに関する県民意識調査の結果①
ウェルビーイングに関する県民意識調査の結果。年代別および時系列でのウェルビーイングの実感を平均値で示しています。

2. ビジョンの共有に向けた取組み

県民と職員の認識向上

富山県はウェルビーイングの概念を県民や職員と共有するため、ビジョンセッションや成長戦略カンファレンスなどのイベントを開催しています。また、「富山県ウェルビーイング指標」を視覚的に表現し、県民の理解を深める取り組みを行っています。こうした取り組みにより、教育分野や経済界にもウェルビーイングの考え方が広まりを見せています。

職員の理解促進

ウェルビーイング施策を効果的に推進するためには、職員自身の理解と意識が重要です。そのため、庁内広報や職員アンケート、ワークショップを通じて、職員のエンゲージメントを高める努力が続けられています。

図表4-9 特設サイトでのウェルビーイングフラワー
特設サイトでのウェルビーイングフラワー。ウェルビーイングの分野ごとの状態を花びらの大きさで表現しています。

3. 今後の課題

ビジョン共有とコミュニケーションの継続

ウェルビーイングの認知度向上と共通理解の深化が今後の課題です。住民との積極的な対話を促進し、政策の効果を検証することで、施策の改善に繋げることが求められています。

図表4-7 「ウェルビーイング」の認知度(2022年県政世論調査)
2022年県政世論調査における『ウェルビーイング』認知度。富山県民のウェルビーイングに関する認識の深さを示しています。

既存計画や政策評価との関係

富山県ウェルビーイング指標と既存の政策評価システムとの関係を整理し、柔軟かつ一貫した政策形成を目指す必要があります。この調整により、既存の評価システムと新しいウェルビーイング指標の両方を活用し、より包括的な政策評価が可能となります。

主観的指標の分析と検証

ウェルビーイング指標の中でも主観的な幸福度を反映する指標については、さらなる分析と検証が求められます。これにより、住民が感じる幸福感や生活の満足度をより正確に把握し、政策展開に活かすことが期待されます。

おわりに

富山県は、豊かな自然と産業の発展に恵まれながらも、少子化や人口減少という課題に直面しています。ウェルビーイング向上に取り組むことは、安定的な成長への第一歩であり、他の地域にも適用可能な新たな地方モデルの創造が期待されています。この取り組みは、日本全体が直面する問題への一つの解決策を提供する可能性があります。

第5章: ウェルビーイング指標と自治体経営 – ロジックモデルの実装によるウェルビーイング政策の展開

ウェルビーイングをどうやって政策に生かすのだろう?ロジックモデルでその秘密を解き明かします!

要約

本章では、エビデンスに基づく政策形成(EBPM)の一環として、ウェルビーイング指標を行政評価に活用するためのロジックモデルの実装について探ります。ロジックモデルの基本構造とその種類、導入の利点を解説し、行政評価における実際の活用方法を検討します。特に、評価制度の改善、ウェルビーイングの「自分ごと化」、データ分析基盤の整備に焦点を当てます。

はじめに

ウェルビーイング指標は、地方自治体が住民の幸福度を高めるための重要なツールとなっています。しかし、これを具体的な政策に反映させるには、適切なフレームワークと評価手法が不可欠です。本章では、ロジックモデルを活用してウェルビーイング指標を行政評価にどう組み込むかを探り、その実装による政策の透明性と効率性の向上について考察します。

ロジックモデルとは

ロジックモデルは、政策やプログラムの設計および評価において、インプット(資源)、アクティビティ(活動)、アウトプット(成果物)、アウトカム(結果)の因果関係を視覚的に示すツールです。このモデルは、政策やプログラムの成果を明確に理解し、評価するために用いられます。ロジックモデルの主な構成要素は次の通りです:

  1. インプット(Input): プログラムや政策の実施に必要な資源や投入物。例としては、予算、人材、設備などが含まれます。
  2. アクティビティ(Activity): インプットを利用して実施される具体的な活動やプロジェクト。例としては、研修プログラムの実施、啓発キャンペーンなどが含まれます。
  3. アウトプット(Output): アクティビティの結果として生じる具体的な成果物やサービス。例としては、作成された資料、提供されたサービスの数などが含まれます。
  4. アウトカム(Outcome): アウトプットによって達成される短期、中期、長期の成果や影響。例としては、知識の向上、行動の変容、社会全体の変化などが含まれます。

ロジックモデルは、これらの要素の因果関係を示すことで、プログラムの目的達成に向けた進捗を評価しやすくします。また、ステークホルダー間の共通理解を促進し、政策の透明性と効率性を向上させる効果があります。

以下に、図表5-1から5-5を用いて具体的なロジックモデルの構成要素とその適用例を示します。

1. ロジックモデル再考

(1) EBPMとロジックモデル

エビデンスに基づく政策形成(EBPM)は、データを活用して政策の効果を検証するアプローチです。RCT(ランダム化比較試験)などの厳密なエビデンスが重視されます。しかし、自治体でのRCTの実施は現実的ではありません。そのため、「第2種のEBPM」として、データを活用した現状把握や将来予測が主に採用されています。ロジックモデルは、政策の因果関係を視覚化し、政策設計や評価のツールとして有用です。

図表5-1: ロジックモデルの構成要素
この図表は、ロジックモデルの構成要素を示し、各文献における要素の違いと共通点を比較しています。

(2) ロジックモデルの基本構造

ロジックモデルは、インプット(資源)、アクティビティ(活動)、アウトプット(成果物)、アウトカム(結果)の因果関係を示す構造です。アウトカムはさらに、直接アウトカム、中間アウトカム、最終アウトカムに分かれます。これにより、政策がどのような成果を生み出すかが明確に理解できます。

図表5-2: ロジックモデルの基本構造
ロジックモデルは、インプット、アクティビティ、アウトプット、アウトカムの4つの主要な要素で構成されます。この図表は、各要素の関係性を視覚的に示しています。

(3) ロジックモデルの種類

ロジックモデルには、単線フローチャート型、複線フローチャート型、体系図型などがあります。それぞれのモデルには独自の長所と短所があり、政策の目的に応じて適切なモデルを選択することが重要です。

図表5-3: 施策のロジックモデル(複線フローチャート型)
このモデルは、施策の因果関係を複数のフローに分けて視覚化しています。各施策の投入から最終成果までの流れを示しています。

図表5-4: 施策のロジックモデル(体系図型)
体系図型のロジックモデルは、施策の目的と手段を階層的に整理し、全体の戦略を視覚化します。

(4) ロジックモデルの制度的導入

現在、政府や自治体でロジックモデルが制度的に導入されており、政策評価、スマートシティ施策、医療計画などで活用が進んでいます。これにより、政策の透明性と効率性が向上しています。

図表5-5: 影響要因を追加した事業のロジックモデル
このモデルは、各ステップにおける影響要因を追加することで、より現実的な施策評価を可能にします。

(5) ロジックモデルの効用

ロジックモデルの利点として、ステークホルダー間の共通言語の開発、参加型学習機会の提供、アウトカムの明確化、知識の明瞭化、評価リソースの効果的な利用などが挙げられます。これにより、政策の理解と実施がスムーズに行われるようになります。

2. 行政組織への実装に向けて

(1) 評価過程に「職場議論の場」を設定する

評価制度の機能を強化するためには、「やりがい」や「達成感」を感じられる評価制度への転換が必要です。そのためには、職場での議論の場を設定し、意見交換を促進することが重要です。


(2) ロジックモデルを評価過程に実装し、ウェルビーイングの向上を「自分ごと化」する

ロジックモデルを用いることで、政策の成果を具体的に視覚化し、職場で議論を深めることができます。これにより、職員が「ウェルビーイングの向上」を自分ごととして捉え、政策形成に積極的に関与する意識を育てることができます。

(3) ウェルビーイング指標に関するデータ分析のための「受け皿」をつくる

データ分析のスキルや経験を持つ専門人材の不足が課題です。そのため、データ分析の基盤を整備し、専門人材の育成を進めることが求められます。これにより、行政組織内でのデータ活用が促進され、より精緻な政策評価が可能となります。

おわりに

ロジックモデルを実践的に導入するためには、全庁的な一斉導入ではなく、限定的な範囲でのスモールスタートが効果的です。また、ロジックモデルは政策の成果が人々の幸福にどのように貢献するかを理解するためのツールとして活用されるべきです。これにより、政策形成の質が向上し、住民のウェルビーイングの向上に繋がることが期待されます。

第6章: 自治体職員とウェルビーイング – 職員のウェルビーイング向上とその計測を中心に

自治体職員のウェルビーイングが、サービスの質にどう影響するか考えたことありますか?その答えを探ってみましょう!

要約

本章では、自治体職員のウェルビーイングに焦点を当て、職員の健康とパフォーマンスの関係、およびその測定方法について考察します。企業の「健康経営」や「ウェルビーイング経営」の考え方が広まりつつあり、職員の身体的・精神的・社会的健康が業績向上に寄与することが注目されています。本章は、これらの概念を自治体の文脈に応用し、職員のウェルビーイングの向上が行政サービスの質向上にどのように繋がるかを探ります。

はじめに

自治体職員のウェルビーイングは、住民サービスの質に直接影響を与える重要な要素です。企業の「健康経営」や「ウェルビーイング経営」の考え方が浸透しつつある中で、自治体でも職員の身体的・精神的健康を支援する取り組みが求められています。本章では、自治体職員のウェルビーイングを向上させる方法と、その効果的な測定方法について詳述します。

1. ウェルビーイングと職員のパフォーマンス

(1) 就業面からのウェルビーイングの向上

ウェルビーイングとは、個人が身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを指し、自治体職員においてもその実現が求められます。企業で注目される「ウェルビーイング経営」は、職員の健康増進が業績向上に寄与することを示しており、自治体にもこの考え方が広がっています。

図6-1 健康経営の考え方に基づく投資とその効果
健康経営における投資とその効果を示した図。職員のウェルビーイング向上が企業の生産性向上にどのように寄与するかを説明しています。


(2) 健康経営

「健康経営」は、従業員の健康保持・増進を戦略的に実践し、収益性を高める手法です。自治体においても、健康経営優良法人認定制度や健康経営銘柄の選定が導入されており、職員の健康を支援する取り組みが進んでいます。

図6-2 健康経営の考え方に基づく投資とその効果
健康経営に基づく投資とその効果を示す別の図。組織の活性化やイノベーションの促進に対する影響を説明しています。


図6-3 健康経営の効果フロー
健康経営が職員や組織、企業全体に与える効果を時間軸で示したフローチャート。健康経営施策の実施がどのように企業の成長に寄与するかを視覚的に説明しています。

(3) ウェルビーイングとパフォーマンス

ウェルビーイング経営は、職員の身体的・精神的・社会的健康を向上させることで、意欲やエンゲージメントを高めます。これにより、創造性や生産性が向上し、欠勤率や離職率の低下が期待されます。自治体においても、職員のウェルビーイングを重視することで、住民サービスの質が向上する可能性があります。

図6-6 ウェルビーイングと個人・組織のパフォーマンス
ウェルビーイングが個人や組織のパフォーマンスに与える影響を示した図。主観的ウェルビーイングが健康、モチベーション、創造性などに与える効果を視覚的に説明しています。


2. 従業員ウェルビーイングの測定

(1) PERMAモデル

ポジティブ心理学者セリグマンが提唱したPERMAモデルは、ポジティブ感情、エンゲージメント、関係性、意義、達成の5つの要素から構成されており、職員の総合的なウェルビーイングを評価するのに有効です。


図6-8 ギャラップ充実度測定の2質問
ギャラップ社によるウェルビーイング測定のための2つの質問。この簡単な質問により、個人の生活満足度を評価する方法を示しています。

(2) ギャラップ社の5つの要素

ギャラップ社は、キャリア、人間関係、経済的、身体的、コミュニティの5つの要素でウェルビーイングを測定します。特にキャリアの満足度が他の要素に強く影響することが示されています。

(3) 幸福度診断 Well-Being Circle

Well-Being Circleは、72の質問からなるアンケートを通じて34のウェルビーイング項目を測定するツールです。多くの企業や自治体で導入されており、包括的なウェルビーイング評価が可能です。


(4) 三谷産業のCompany Well-being Index

この指数は、企業の長期的活動を評価するもので、経営において重要な指標となります。自治体でも同様の指標を導入することで、長期的な視点からの施策評価が可能となります。

おわりに

ウェルビーイング経営の成功には、経済的・物理的要因と、心理的要因や職場環境といったソフト要因の両方を考慮することが重要です。これらの要因は自治体においても共通しており、職員のウェルビーイング向上を目指した人事施策が求められます。自治体がウェルビーイング経営に取り組むことは、職員の健康とモチベーションを高めるだけでなく、住民に提供するサービスの質を向上させ、地域全体のウェルビーイング向上にも貢献するでしょう。

図6-11 Well-being 経営達成要因の体系
ウェルビーイング経営の達成要因を示した体系図。ハード要因とソフト要因がどのように影響を与え、企業の生産性や価値向上に寄与するかを説明しています。

第7章: 自治体におけるウェルビーイングの現実

自治体のウェルビーイング施策、どんな現実が待っているのでしょうか?一緒に探ってみましょう!

要約

福井県越前市長の山田賢一氏は、本章において、自治体が取り組むべきウェルビーイングの施策について具体的な事例を交えて説明しています。山田氏は、地域ごとの特性を考慮しながら、ウェルビーイングを向上させるための目標設定や課題解決の手法を提案し、市民とのコミュニケーションの重要性を強調しています。また、ウェルビーイングの評価指標設定についても述べ、具体的な実践方法を示しています。

はじめに

本章では、福井県越前市長の山田賢一氏が自治体が取り組むべきウェルビーイングの施策について具体的な事例を交えて説明します。山田氏は、地域ごとの特性を考慮しながら、ウェルビーイングを向上させるための目標設定や課題解決の手法を提案し、市民とのコミュニケーションの重要性を強調しています。本章を通じて、読者に自治体のウェルビーイング施策の実態とその意義を理解してもらうことを目指しています。

1. 幸福度からウェルビーイングへの進化

要点: ウェルビーイングは、単なる幸福度の測定ではなく、市民が心身ともに健やかで、社会的にも充実感を持って生活する状態を指します。

福井県は全国的な幸福度ランキングで上位に位置していますが、地域ごとの特有の課題が存在します。たとえば、高齢化や空き家問題といった現実的な課題に直面しており、これらに対応するためには地域の実態に即した評価が必要です。

2. ウェルビーイングの実現に向けた課題解決

要点: ウェルビーイングを現実の政策目標とするためには、市民が直面している課題の解決が必要です。特に、人口減少や高齢化などの問題に対しては、自治体が具体的な施策を実行することが求められます。また、地域ごとの課題に応じた柔軟な対応が重要です。

図表の説明:
次に、福井県および越前市における若年人口の推移について見てみましょう。若年人口の減少は、地域の活力や経済の持続可能性に大きく影響します。

図表7-1 若年人口の推移

図表の説明:
この図表からわかるように、若年人口は着実に減少しており、特に越前市ではその傾向が顕著です。この課題に対処するためには、若者が地域に戻ってくるような魅力的な環境づくりが求められます。

次に、越前市の各地区ごとの高齢化率を見てみましょう。高齢化が進む地区では、特有の課題が浮かび上がってきます。

図表7-2 越前市の地区別高齢化率

この図表から見て取れるように、越前市の多くの地区で高齢化が進行しています。特に高齢化率が40%を超える地区では、医療や介護のサービスが重要となります。

3. 居場所と舞台の提供

要点: ウェルビーイングには、安心して過ごせる「居場所」と、自己表現や社会参加を促す「舞台」の提供が不可欠です。

越前市では、文化・スポーツ活動や地域イベントを通じて市民が自己表現できる場を提供し、地域コミュニティの強化を図っています。たとえば、地元のフェスティバルや地域スポーツ大会を通じて、市民が参加しやすい環境を整えています。これにより、市民同士のつながりを深めることができます。

図表の説明:
地域ミーティングを通じて、市民の声を直接聞くことは、具体的なニーズや課題を把握するために不可欠です。以下は、地域ミーティングで実施されたアンケート結果です。

図表7-3 越前市地域ミーティングアンケート

このアンケート結果から、各地区での課題や市民の感じるウェルビーイングに対する意識が明らかになりました。特に、若者の地域活動への参加や住み続けたいと思う意識が重要なポイントとなっています。

図表の説明:
ウェルビーイングを高めるためには、居場所と舞台の提供が重要です。次に、居場所や舞台の実感とウェルビーイングの相関を見てみましょう。

図表7-4 主観的ウェルビーイング度と居場所実感と舞台実感相関図

この図表は、居場所や舞台を感じている市民ほどウェルビーイングが高いことを示しています。これにより、地域活動や社会参加の機会を増やすことの重要性が裏付けられます。

4. 課題解決型の総合計画

要点: 総合計画では、市民の課題を抽出し、それに基づいた政策を策定しています。「100年人生の幸福実現」や「10万人の元気と活力」といった具体的な目標を掲げ、各種施策を展開しています。

図表の説明:
越前市では、ウェルビーイングを目指す総合計画を策定しています。以下は、その計画体系を示す図表です。

図表7-5 越前市の総合計画体系

この総合計画体系図から、市が掲げる具体的な目標や施策が明確にわかります。市民の幸福実感を高めるために、様々な分野での取り組みが計画されています。

5. ウェルビーイングの3つの機能

要点: ウェルビーイングには、以下の3つの機能があります。

  1. 政治的機能: 市民と共有する理念として、市政の方向性を示す。
  2. 組織マネジメントとしての機能: 現場主義や成果主義の徹底を図り、政策の効果を高める。
  3. 総合計画における機能: ウェルビーイングの向上を目指す政策評価の基盤としての役割。

越前和紙
越前和紙は、日本最古の手漉き和紙の一つで、約1500年の歴史を誇ります。その丈夫さと美しさから、書道や美術作品の素材としても重宝されています。和紙作りは越前市の伝統産業の象徴であり、職人たちが一枚一枚丁寧に手作りしています。

越前打刃物
越前打刃物は、700年以上の伝統を持つ工芸品で、今でも高品質な刃物として全国的に評価されています。農具や包丁など、現代の生活にも広く利用されており、職人たちの技術が光る逸品です。

越前箪笥
越前箪笥は、堅牢かつ美しい作りが特徴の伝統家具で、その細工の精密さと耐久性から代々受け継がれる宝物となっています。越前市の職人たちは、昔ながらの技術を守りながら、現代のニーズにも応えた作品を制作しています。


6. ウェルビーイング指標の考え方

要点: ウェルビーイングの評価指標は、市民に分かりやすい形で設定し、アンケートや聞き取り調査を通じて、地域の実態を反映するものとします。たとえば、「住み続けたい地域だと思うか」や「コミュニティ活動に参加しているか」などの具体的な項目を指標として設定し、ウェルビーイングの状況を把握します。

図表の説明:
ウェルビーイングの評価には、具体的な指標が不可欠です。以下は、越前市が設定した幸福実感指標の一部です。

図表7-6 越前市降伏実感指標

この図表に示されている指標は、市民のウェルビーイングを具体的に評価するためのものです。これらの指標を基に、市の施策の効果を継続的に評価していくことが重要です。

おわりに

自治体におけるウェルビーイングの施策は、地域の特性や市民のニーズに応じて柔軟に対応することが求められます。本章で述べた越前市の取り組みは、自治体がウェルビーイングを向上させるための具体的な方法を示しています。これらの施策を通じて、市民が心身ともに健やかで、社会的にも充実感を持って生活できる地域社会の実現を目指していくことが重要です。

─ 令和5年度自治体マネジメント研究会 ─

本記事は、「ウェルビーイング指標に基づく自治体政策に関する調査研究 – 令和6年3月発行 – 一般財団法人 地方自治研究機構」を参考に、要点をまとめ、一般の方にも見やすい形で構成したものです。より詳細な情報は、リンク先のPDFをご覧ください。

なお、本研究会の内容は、地域ごとの特色やウェルビーイング指標を活用した自治体政策に関する取り組みについて多くの示唆を提供しています。研究会の成果が、地域のウェルビーイング向上に寄与することを願っております。

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