2026.9月

※最終更新2026.10.2(金)21:47/ 次回更新予定:10/2

このページでは、2026年9月以降のニュースレターを掲載しています。
8月31日以前のニュースレターはこちらをご覧ください。

AIが頼りになる、というだけではウェルビーイングには足りないの?
――「頼れる相手がAIでも、社会的支援になる?」

2026.9.24 │

困ったときに、話を聞いてくれる。

うまく考えがまとまらないときには、一緒に整理してくれる。

以前話したことを踏まえて、必要な情報を探してくれる。

落ち込んだときにも、何度でも話を聞いてくれる。

もし、そんな相手がいたら、

「自分には、頼れる相手がいる」

と感じるかもしれません。

では、その相手がAIだったら?

それでも私たちは、

「支えてもらっている」

と言えるのでしょうか。


AIに話すだけでも、気持ちは変わる?

この問いについて、最近、興味深い研究が増えています。

2026年に発表された実験では、279人の参加者が、自分を悩ませている出来事についてAI、または「人間だと思っている相手」に気持ちを打ち明けました。

実際には、どちらの条件でも、よく似たAI生成の応答が使われています。

その結果、どちらの場合にも、

ストレスや孤独感が低下し、「支えてもらった」という感覚が高まりました。

そして、その改善の大きさには、AIだと認識していた場合と、人間から返事をもらったと思っていた場合との間で、有意な違いが見られませんでした。サイエンスダイレクト

少なくとも短い対話では、

相手がAIだと分かっていても、人はそこから心理的な支えを得ることがある。

そんな可能性が見えてきています。


でも、「気持ちが楽になる」と「人とのつながり」は同じ?

ここで少し立ち止まりたいところがあります。

実は、これまでの研究がすべて同じ結果を示しているわけではありません。

2025年に発表された150人を対象とした実験では、AIに気持ちを打ち明けることで、怒りやフラストレーション、恐怖などのネガティブな感情は軽減しました。

ところが、
「社会的に支えられている」という感覚や、孤独感には有意な変化が見られませんでした。doi.org

つまり、
AIとの対話によって気持ちが楽になることと、

誰かとの社会的なつながりを感じることは、

必ずしも同じではないのかもしれません。

さらに2026年、大学新入生296人が2週間にわたって毎日、AIまたはランダムに組み合わされた同級生とやり取りした研究では、孤独感を和らげる効果は、人間の同級生とのやり取りのほうがAIより大きかったと報告されています。サイエンスダイレクト


では、AIからもらった支えは「本物」ではない?

そう単純に分けることも難しそうです。

日本の成人14,721人を分析した2026年の研究では、感情的な交流を目的とするAIコンパニオンの利用者は、非利用者よりも、人生満足度、幸福感、人生の意味・目的の評価が高い傾向にありました。

特に孤独感が高い人では、AIコンパニオン利用とウェルビーイングとの正の関連が強く見られています。

ただし、これは一時点で調べた横断研究です。

そのため、
「AIを使ったから幸福になった」

と因果関係まで結論づけることはできません。千葉大学 社会予防医学研究部門

そして別の研究では、AIとの関係のあり方によっては、心理的ウェルビーイングにはプラスでも、現実の人間同士の社会的なつながりにはマイナスになり得るという結果も報告されています。doi.org

どうやら、
「AIは人間の代わりになるのか?」

という二択だけでは、この問題を捉えきれなさそうです。


「誰から支えられたか」だけではなく、「何を受け取ったか」

人から受け取る支援にも、いろいろあります。

話を聞いてもらうこと。

困ったときに情報をもらうこと。

考えを整理するのを手伝ってもらうこと。

励ましてもらうこと。

一緒に時間を過ごすこと。

自分の存在を気にかけてもらうこと。

AIは、このうちのいくつかを、かなり上手にできるようになってきました。

だからこれからは、

「AIか、人間か」だけではなく、

「私たちは、関係の中から何を受け取ることで『支えられている』と感じるのか?」

を考えることも大切なのかもしれません。

同時に、人と一緒に暮らしたり、同じ場所を経験したり、お互いに助けたり助けられたりする関係まで、AIとの対話と同じだと考える必要もありません。

AIから受け取れる支えと、人との関係から受け取るもの。

重なるところもあれば、違うところもある。

研究は、ちょうどその境界を探り始めているところです。


🐢ウエルのひとこと:

AIに助けてもらって元気になったら、その「元気になった」は本物だと思います。

でも、
AIに助けてもらうことと、人とつながることは、全部同じなのかな?

それは、まだよく分かりません。

「AIじゃだめ」と最初から決めるのでもなく、

「AIがいれば全部大丈夫」と決めるのでもなく、

自分は、どんなときに「支えてもらった」と感じるんだろう?

そこから考えてみたいです。


今日の研究

Meilan Hu et al.
Emotional support through AI: Venting to artificial intelligence or a perceived human may offer comparable emotional well-being benefits
Computers in Human Behavior Reports, 2026
AIまたは人間だと認識した相手への感情吐露を比較し、ストレス、孤独感、知覚された社会的支援などの変化を検討した実験研究です。サイエンスダイレクト
論文を読む


Atsushi Nakagomi et al.
AI companions and subjective well-being: Moderation by social connectedness and loneliness
Technology in Society, 2026
日本の成人14,721人を対象に、AIコンパニオン利用と、生活満足度・幸福感・人生の意味や目的との関連を分析しています。因果関係を示す研究ではない点には注意が必要です。千葉大学 社会予防医学研究部門
千葉大学による研究紹介

研究する人たちも、つながっている。
――WRCの研究コミュニティから

2026.9.23 │

ここしばらく、オックスフォード大学 Wellbeing Research Centre(WRC)が紹介している研究を、一つずつ見てきました。

AIと仕事。

週4日勤務。

職場のウェルビーイング。

人への信頼。

バーンアウト。

年齢と幸福。

人間関係。

そして、世界各地で変化する生活評価。

毎日研究を追いかけていると、つい、

「研究」=完成した論文や、新しく発見された結果

のように感じてしまいます。

でも、その研究をつくっているのも、やっぱり人です。

今日は少しだけ、研究結果ではなく、研究する人たちの側を見てみます。


研究は、一人で完成するものばかりではない

2026年9月18日、WRCのあるオックスフォード大学 Harris Manchester Collegeでは、British Sociological Associationによる若手研究者向けのワークショップが開かれました。

テーマは、

Sociology of Work and Wellbeing
――仕事とウェルビーイングの社会学。


若手研究者や大学院生が集まり、

「なぜ、ある仕事は良い仕事として経験され、ある仕事はそうではないのか」

「人は、その働く環境のなかでどのように生きているのか」

「仕事の経験は、より大きな社会構造とどう関係しているのか」

といった問いについて研究を持ち寄る場です。LinkedIn

そこでは完成した研究を発表するだけではなく、

研究についてフィードバックをもらったり、ほかの研究者と交流したり、学術誌の編集者と話したりする機会

も設けられていました。LinkedIn


一つの「問い」から、次の「問い」へ

考えてみれば、研究も面白いですね。

誰かが、

「働く時間を短くしたら、人は幸せになるのかな?」

と考える。

別の人が、

「でも、同じ時間を4日間に詰め込んだら?」

と考える。

さらに、

「それは男女で違わない?」

「仕事を自分でコントロールできる場合は?」

と、また別の問いが生まれる。

一つの研究ですべてが分かるのではなく、

誰かの問いが、誰かの次の問いにつながっていく。

私たちが読んでいる一つひとつの論文の後ろには、そんな研究者同士のやりとりもあります。


ウェルビーイングを研究する「コミュニティ」

WRCでは、こうした研究者の交流がこの一度だけ行われているわけではありません。

研究者を招いて新しい研究を紹介するセミナーシリーズもあり、たとえば主観的なウェルビーイング尺度の測定という専門的なテーマについても、外部研究者を招いて議論しています。LinkedIn

また、持続可能なウェルビーイングについては、失業と気候への不安、GDPに代わる指標、気候変動とウェルビーイングなど、異なるテーマを研究する人たちが研究を持ち寄っています。LinkedIn


こうして見ると、

ウェルビーイング研究そのものも、一つの大きな「We」なのかもしれません。

昨日まで見てきた研究も、それぞれ孤立して存在しているのではなく、

研究する人。

研究に参加する人。

研究について議論する人。

それを社会で実践する人。

そして、研究を読んで考える私たち。

いろいろな人へと、少しずつつながっています。


🐢ウエルのひとこと:

研究者さんも、一人でずっと机に向かっているだけじゃないんだね。

「こんなことが分かったよ」

「でも、これはどうなの?」

「じゃあ、次はこれを調べてみよう」

って話しながら、研究も育っていくのかな。

私たちも毎日、

「これって、どういうことだろう?」

って一緒に考えているから、

ほんの少しだけ、研究コミュニティの端っこにいるような気がしてきました。🐢


今日の研究コミュニティ

Wellbeing Research Centre, University of Oxford

2026年9月18日、WRCの拠点であるHarris Manchester Collegeで、British Sociological AssociationのEarly Career Workshop on the Sociology of Work and Wellbeingが開催されました。

若手研究者・大学院生が仕事とウェルビーイングについて研究を持ち寄り、研究へのフィードバック、ネットワーキング、学術誌編集者との交流などを行う場として企画されたものです。

WRCによるワークショップの紹介

世界の幸福地図は変わっている?
――中央・東ヨーロッパで上昇する生活評価

2026.9.22 │

「世界で幸せな国はどこ?」

そう聞くと、

フィンランド、デンマーク、アイスランド……

北欧の国々を思い浮かべる人も多いかもしれません。

実際、World Happiness Reportでは、現在も北欧諸国が世界の上位を占めています。

でも、世界の幸福を「今、何位なのか」ではなく、「長い時間のなかで、どう変わってきたのか」という視点で見てみると、別の景色が見えてきます。

その一つが、

中央・東ヨーロッパで起きている、生活評価の上昇です。


「順位」ではなく、「変化」を見る

World Happiness Report 2026では、世界各国の人々に、

自分の現在の生活を、0から10までのどこに置くか

を尋ねたGallup World Pollのデータをもとに、各国の生活評価を比較しています。

そして、2006–2010年と2023–2025年を比較すると、両期間のデータがある136か国のうち、

79か国で生活評価が統計的に有意に上昇し、41か国では有意に低下していました。

さらに、生活評価が0~10の尺度で1ポイント以上上昇した21か国の多くは、中央・東ヨーロッパの国々でした。世界幸福報告

これは小さくない変化です。

大きく伸びた国々も、中央・東ヨーロッパに
とくに長期的な上昇が大きかった上位5か国は、

セルビア、ブルガリア、ジョージア、ラトビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ。

いずれも中央・東ヨーロッパ周辺の国々です。世界幸福報告

そして、この変化は現在の世界ランキングにも少しずつ現れています。

2026年には、

コソボ 16位
スロベニア 18位
チェコ 20位


と、中央・東ヨーロッパの3か国が世界のトップ20に入りました。世界幸福報告

World Happiness Reportは、こうした長期的な動きを、

中央・東ヨーロッパと西ヨーロッパの幸福度が近づいていく「収斂(convergence)」

として捉えています。

しかもこれは、ここ数年突然起きた現象ではなく、10年以上にわたって見られてきた変化です。世界幸福報告


「幸せな国」は、固定されているわけではない

これは、とても興味深いことだと思います。

世界幸福度ランキングを見ると、
「北欧の文化だから幸せなのかな」

「この国はもともと幸せな国なのかな」

と思ってしまうことがあります。

けれど、時間軸を加えてみると、

国の幸福度は、ずっと同じ場所に固定されているわけではありません。

上がっている国もあれば、下がっている国もあります。

実際、World Happiness Report 2026では、中央・東ヨーロッパで大きな上昇が見られる一方、西側の工業国では2006–2010年より生活評価が低下した国のほうが多いことも報告されています。世界幸福報告

つまり、世界の幸福地図は、少しずつ描き変わっているのです。


「どこが幸せ?」から、「なぜ変わった?」へ

もちろん、この結果だけから、

「中央・東ヨーロッパの幸福度が上がった原因はこれだ」

と一つに決めることはできません。

World Happiness Reportが国ごとの生活評価の違いを説明するときには、

一人あたりGDP
健康寿命
困ったときに頼れる人がいること
人生の選択の自由
寛容さ・他者への貢献
腐敗についての認識


といった要因を用いています。これらは国・年による生活評価の違いの4分の3以上を説明しますが、ランキング自体はこうした要因から計算されるのではなく、人々自身による生活評価から作られています。世界幸福報告

だから、「幸福ランキング」を見るときも、

何位だった?

だけで終わらず、

なぜ、この国では人々の生活評価が上がってきたのだろう?

と考えてみる。

そこには、他の国や地域が学べることもあるかもしれません。


🐢ウエルのひとこと:

世界の幸福地図って、ずっと同じ色じゃないんだね。

今幸せなところを見るだけじゃなくて、

「前より幸せになったところでは、何が変わったんだろう?」

って見てみたいです。

幸せは、その国に最初からあるものだけじゃなくて、

社会が変わることで、少しずつ育っていくものでもあるのかな。

そうだったら、

「自分たちのところも、もっとよくできるかな?」

って考えられる気がします。


今日の研究・資料

World Happiness Report 2026
Gallup World Pollによる2006–2010年と2023–2025年の生活評価を比較すると、中央・東ヨーロッパでは世界でも特に大きな上昇が見られています。報告書は、これを10年以上続いている東西ヨーロッパ間の幸福度の収斂という長期的な変化として紹介しています。世界幸福報告

World Happiness Report 2026:International evidence on happiness and social media

人間関係は、「I」から「We」へ?
――ウェルビーイングの社会的な側面

2026.9.21 │

ウェルビーイングについて考えるとき、私たちはつい、

「私は幸せだろうか?」
「私はどうすれば、もっと幸せになれるだろう?」

と考えます。

よく眠る。
運動する。
ストレスを減らす。
自分に合った働き方をする。

もちろん、どれも大切です。

でも、ウェルビーイングは本当に、「私(I)」だけを見ていれば分かるものなのでしょうか。

オックスフォード大学 Wellbeing Research Centreは、Jan-Emmanuel De Neve教授のインタビューを紹介するなかで、

「I」から「we」へ視点を移すこと

に注目しています。

幸福は、一人の中だけにあるわけではない
De Neve教授が指摘しているのは、私たちの社会生活の質や豊かさです。

誰かと話す。

友人に連絡する。

誰かを助ける。

ボランティアをする。

一緒に食事をする。

こうした一見ささやかな行動も、ウェルビーイングと関係しています。

WRCは、こうしたpro-social behaviours(向社会的行動)が、幸福感や人生についての感じ方の向上と関連していると紹介しています。

つまり、

「自分を幸せにするために、何をするか」

だけではなく、

「誰かと、どのようにつながっているか」

も、ウェルビーイングを考える大切な部分なのです。


「誰かと食べる」ことにも意味がある

このニュースレターでも以前、誰かと一緒に食事をすることを取り上げました。

実際、WRCの研究では、142の国・地域のデータを使って調べたところ、食事を人と共有する頻度と主観的ウェルビーイングには、ほぼすべての世界地域で正の関連が見られました。

さらに米国のデータでは、その日に少なくとも一度誰かと食事をした人は、より高い幸福感と、より低いストレス・痛み・悲しみを報告していました。ウェルビーイング研究センター

大きなイベントを開く必要はありません。

誰かとごはんを食べる。

しばらく話していなかった人に連絡する。

困っている人を少し手伝う。

そんな小さな「We」が、自分自身のウェルビーイングともつながっているのかもしれません。


「セルフケア」だけでは見えないもの

ウェルビーイングという言葉は、ときどきとても個人的なものとして語られます。

「自分を大切にしよう」

「自分のストレスを管理しよう」

「自分に合った生活をしよう」

もちろん、それも必要です。

けれど、

自分を大切にすることと、人とのつながりを大切にすることは、別々の話ではないのかもしれません。

自分のウェルビーイングを支えてくれる人がいる。

そして、自分も誰かのウェルビーイングを少し支えている。

そう考えると、ウェルビーイングは、

「I」の状態であると同時に、「We」の中でつくられていくもの

とも考えられそうです。


🐢ウエルのひとこと:

「自分は幸せかな?」って考えるだけじゃなくて、
「私たちは、どう過ごしているかな?」って考えるんだね。


誰かとごはんを食べたり、
困っている人をちょっと手伝ったり、
久しぶりの人に「元気?」って言ったり。

それは相手のためだけじゃなくて、

自分の幸せと、あなたの幸せが、少しつながっている

ということなのかもしれません。

今日は、「I」だけじゃなくて、
「We」のウェルビーイングも考えてみたいです。


今日の研究・資料

Wellbeing Research Centre, University of Oxford

WRCはJan-Emmanuel De Neve教授のインタビューを紹介し、ウェルビーイングを考えるときに「I」から「we」へ視点を移すこと、そして社会生活の質や豊かさを重視することを取り上げています。友人への連絡、ボランティア、食事を共にするといった向社会的な行動も、幸福や人生についての評価と関連するとしています。

また、WRCの研究では、食事を誰かと共有することとウェルビーイングとの正の関連が、世界各地のデータから示されています。ウェルビーイング研究センター

仕事のウェルビーイングに、万能な処方箋はある?
――one-size-fits-allではない理由
2026.9.20 │

昨日は、職場のウェルビーイングについて、

つらくなった人を助けるだけでなく、つらさを生み出している原因にも目を向けること
を考えました。

では、その「原因」を改善するための方法が見つかったら、それをすべての職場に導入すればいいのでしょうか?

たとえば、

柔軟な働き方を増やす。
仕事の裁量を大きくする。
チームのコミュニケーションを改善する。
マネージャーへの研修を行う。

どれも、職場のウェルビーイングを考えるうえで大切そうです。

でも、ここでも一つ注意したいことがあります。

職場のウェルビーイングに、「これさえやれば大丈夫」という万能な処方箋はありません。


同じ会社の中でも、必要なものは違う

オックスフォード大学ウェルビーイング・リサーチ・センターは、職場のウェルビーイングを改善する介入には、さまざまなレベルがあると紹介しています。

たとえば、

組織全体を変えること。
一人ひとりの仕事や役割を変えること。
チームやグループの働き方を変えること。
個人を支援すること。

です。

そして重要なのは、

何が有効なのかは、その組織、そこで働く人々、そして働いている条件によって変わる

ということです。

[Work Wellbeing Playbook|Wellbeing Research Centre, University of Oxford]

同じ「職場」でも、

工場で働く人と、オフィスで働く人。

一人で集中する仕事と、チームで協力する仕事。

新人と、管理職。

子育てや介護をしながら働く人。

それぞれ、ウェルビーイングを支えるものも、損なうものも同じとは限りません。


「ウェルビーイング施策」に見えないものもある

面白いのは、ウェルビーイングを改善する取り組みが、必ずしも「ウェルビーイング施策」という名前をしているわけではないことです。

WRCは例として、

公正な賃金、苦情処理の手続きの見直し、コミュニケーション方法の変更

なども挙げています。

ヨガ教室やウェルビーイング・アプリだけが、ウェルビーイング施策なのではありません。

働く人を困らせているものが「不公平な評価」なら、評価制度を見直す。

仕事量なら、仕事の配分を考える。

人間関係なら、チームやマネジメントを見る。

つまり、

先に施策を決めるのではなく、まず「何がウェルビーイングを左右しているのか」を知る。

そこから、その職場に合った方法を考える必要があります。


「正しい施策」より、「この職場に必要な施策」

これは昨日の話ともつながっています。

昨日の🐢ウエルは、

雨にぬれた人にタオルを渡すだけではなく、屋根に穴があいているなら屋根も直そう

と考えました。

でも今日、もう少し考えてみると――

すべての家の屋根に、同じ場所の穴があいているわけではありません。

ある家では屋根かもしれない。

ある家では窓かもしれない。

そもそも雨ではなく、暑さに困っている家もあるかもしれません。

だから、

「この方法が効いたから、みんなこれをやろう」ではなく、まず何に困っているのかを見る。

職場のウェルビーイングにも、そんな姿勢が必要なのかもしれません。


🐢ウエルのひとこと:

昨日、屋根の穴を直せばいいと思ったけど、
今日は、その前に「どこから雨が入っているのかな?」って調べたほうがいいと思いました。


みんなに同じ薬を渡すより、

その人、その仕事、その職場では、何が困りごとになっているのか。

ちゃんと見てから考えたほうが、よくなりそうです。


今日の研究・資料

Work Wellbeing Playbook: A Systematic Review of Evidence-Based Interventions to Improve Employee Wellbeing
Sarah Cunningham, William Fleming, Cherise Regier, Micah Kaats, Jan-Emmanuel De Neve
Wellbeing Research Centre, University of Oxford / World Wellbeing Movement 

3,000本以上の研究をレビューし、職場のウェルビーイングを改善する介入を整理したPlaybook。職場環境や業種、地域、従業員それぞれのニーズを考慮しながら、組織・グループ・個人など、さまざまなレベルの介入の重要性を紹介しています。

職場のウェルビーイング施策は、本当に問題を解決している?
――「対処」と「原因」の違い
2026.9.19 │

仕事でストレスを感じたとき、

マインドフルネスをする。
レジリエンス研修を受ける。
ウェルビーイング・アプリを使う。

こうした取り組みは、今では多くの職場で見かけるようになりました。

もちろん、心を整えたり、ストレスへの対処法を身につけたりすること自体には意味があります。

でも、もしストレスの原因が、

仕事量が多すぎること。
人員が足りないこと。
働く時間を自分で決められないこと。
マネジメントや仕事の設計そのものに問題があること。

だとしたら――

「ストレスにうまく対処できる人になる」だけで、本当に問題は解決するのでしょうか。


「働く人を変える」ウェルビーイング施策

オックスフォード大学ウェルビーイング・リサーチ・センターのWilliam Fleming博士は、英国の46,336人の労働者、233組織のデータを使い、職場で行われている個人向けのウェルビーイング施策について調べました。Wiley Online Library

対象になったのは、

マインドフルネス、レジリエンスやストレス管理の研修、リラクゼーション、時間管理、コーチング、ウェルビーイング・アプリなど。

分析の結果、複数の主観的ウェルビーイング指標において、こうした施策に参加した人が、参加していない人より良い状態にあるという明確な差は確認されませんでした。例外的にボランティア活動にはプラスの可能性が示されましたが、研究者は選択バイアスなどにも注意を促しています。Wiley Online Library


問題に「対処」することと、原因を変えること

ここで重要なのは、

ウェルビーイング施策が必要ない、という話ではありません。

問いかけられているのは、

「どこを変えようとしているのか?」

ということです。

たとえば仕事量が多すぎて疲れている人に、ストレス管理の方法を教える。

それによって、その人が少し楽になることはあるかもしれません。

でも、

仕事量そのものは減っていません。

人手不足が原因なら、人手不足は残ったままです。

働き方に裁量がないことが原因なら、その働き方も変わっていません。

Fleming博士は、スケジュール、マネジメント、人的資源、評価制度、仕事の設計など、組織そのものを変える取り組みをより重視する必要があると論じています。Wiley Online Library


「人を強くする」だけではなく、「環境をよくする」

これは、ウェルビーイングを考えるうえで、とても大切な視点かもしれません。

つらい環境にいる人に、

「もっとレジリエンスを高めよう」

と言うだけでは、いつの間にか環境の問題が、その人自身の問題に置き換わってしまうことがあります。

必要なのは、

人が環境に耐えられるようにすることだけではなく、そもそも人が無理をしなくても働ける環境をつくること。

個人への支援と、組織の改善。

どちらか一方ではなく、何がウェルビーイングを損なっているのかを見極め、それに合った方法を選ぶことが大切なのだと思います。


🐢ウエルのひとこと:

つらくなった人を助けることも大事だけど、
どうしてつらくなったのかを考えることも大事なんだね。


雨にぬれた人にタオルを渡すのは、とても大切。

でも、屋根に穴があいているなら、

タオルをたくさん用意するだけじゃなくて、屋根も直したほうがいい。

職場のウェルビーイングも、そんなふうに考えられるのかもしれません。


今日の研究

William J. Fleming
Employee well-being outcomes from individual-level mental health interventions: Cross-sectional evidence from the United Kingdom
Industrial Relations Journal, 55, 162–182 (2024) Wiley Online Library

Wellbeing Research Centreによる研究紹介
論文全文(Wiley)

世界で幸せな国から、何を学べる?
――文化だけではなく「環境」に目を向ける

2026.9.18 │

「世界でいちばん幸せな国」と聞いたら、どんな暮らしを想像するでしょう。

自然の中でゆっくり過ごすこと。
家族や友人との時間を大切にすること。
働きすぎないこと。

「その国の人たちには、幸せになる特別な文化や考え方があるのでは?」と思うかもしれません。

でも、世界の幸福度を考えるとき、注目したいのは個人の心がけだけではありません。

2026年のWorld Happiness Reportでは、フィンランドが9年連続で世界1位となりました。ランキングは、人々自身が0〜10の尺度で自分の人生を評価した回答をもとに作られています。世界幸福報告


幸せな国には、どんな「環境」がある?

World Happiness Reportでは、国による幸福度の違いを理解するために、さまざまな社会的条件との関係も分析しています。

たとえば、

所得
健康寿命
困ったときに頼れる人がいること
人生の選択の自由
寛容さ
腐敗についての認識


などです。Oxford University

大切なのは、これらの要因から機械的に「幸福ランキング」を算出しているわけではないこと。

ランキングそのものは、人々が自分の人生をどう評価しているかによって決まります。

そのうえで研究者たちは、

「なぜ、ある国では人々が自分の人生をより高く評価しているのだろう?」

と、その背景にある社会の条件を調べているのです。世界幸福報告


「幸せな人になる」だけでなく、「幸せに暮らしやすい社会」を考える

ここで視点を少し変えてみると、幸福についての見え方も変わります。

「フィンランドの人は、どう考えているのだろう?」

だけではなく、

「フィンランドでは、人が安心して暮らすために、どんな条件が整っているのだろう?」

と考えてみる。

困ったときに誰かを頼れる。
自分の人生について選択できる。
健康に暮らせる。
社会のなかで人を信頼できる。

こうした環境があれば、個人が毎日「幸せになろう」と頑張らなくても、幸福を感じやすい土台がつくられるのかもしれません。


幸福を、個人だけの責任にしない

これはウェルビーイングを考えるうえで、とても大切な視点です。

幸福というと、
「前向きに考えよう」
「感謝しよう」
「良い習慣を身につけよう」

といった、個人の行動に目が向きがちです。

もちろん、それらが役立つこともあります。

でも、私たちの幸福は、自分の内側だけでつくられているわけではありません。

家族や友人、職場、地域、制度、経済状況、そして社会への信頼。

私たちは、そうした環境の中で暮らしています。

世界の幸せな国から学ぶということは、そこで暮らす人の習慣をそのまま真似することではなく、

「人がよりよく生きられる環境とは、どんな環境なのだろう?」

と考えることなのかもしれません。


🐢ウエルのひとこと:

幸せって、自分ひとりでつくらなくてもいいんだね。

自分ががんばることも大切だけど、

困ったときに助けてもらえたり、
安心して暮らせたり、
自分で選べることがあったり。

「幸せになりなさい」と言われる社会より、
自然と幸せに暮らしやすい社会のほうがいいな。


幸せな国を見るときは、
人だけじゃなくて、その人たちを囲んでいるものも見てみたいです。


今日のレポート

World Happiness Report 2026
Happiness and Social Media

2026年版では、フィンランドが9年連続で幸福度ランキング1位となりました。ランキングは各国の人々による生活評価の3年間の平均を基本とし、研究者は国ごとの差を理解するため、所得、健康、社会的支援、自由などの要因も分析しています。Oxford University

World Happiness Report 2026

イギリスの幸福は、どこでも同じ?
――UK Wellbeing Report 2026

2026.9.17 │

「イギリスの人々の幸福度は――」

そんな数字を見ると、つい国全体をひとつのまとまりとして考えてしまいます。

でも、その「平均」の内側を見てみると、暮らしている地域によって、ウェルビーイングには違いがあります。

World Wellbeing Movementが、オックスフォード大学Wellbeing Research Centreの研究者らの協力を得てまとめたUK Wellbeing Report 2026では、イギリスの人々の生活満足度を、国全体の平均だけでなく地域ごとにも分析しています。World Wellbeing Movement


同じイギリスでも、幸福度は違う

報告書によると、平均生活満足度が最も高かったのは北アイルランドの7.81。

一方、ロンドンは7.41で、地域・構成国のなかで最も低い値となりました。LinkedIn

経済活動が活発で、仕事や文化、さまざまな機会が集まる大都市だからといって、必ずしも生活満足度まで最も高くなるわけではない。

ここにも、「豊かさ」と「幸福」は必ずしも同じではないことが表れているようです。


「平均」だけでは見えない人たち

さらに今回の報告書で重要なのが、平均値だけでなく、生活満足度がとても低い人がどのくらいいるのかにも目を向けていることです。

報告書では、0〜10で尋ねた生活満足度について、5以下の人を“Happiness Poverty Line(幸福の貧困線)”以下として分析しています。

イギリスでは、16歳以上のおよそ8人に1人がこの水準にあると推計されています。LinkedIn
そして、ここにも地域差があります。

北アイルランドでは幸福の貧困線以下の人が9%だったのに対し、ウェールズとイングランド北西部では14%でした。LinkedIn
同じ国に暮らしていても、ウェルビーイングの状況は一様ではないのです。


平均が同じでも、中身は違うかもしれない

これは、ウェルビーイングを測るときの大切なポイントでもあります。

たとえば二つの地域で平均生活満足度が同じだったとしても、

多くの人が平均付近にいる地域と、
とても幸福な人がいる一方で、とてもつらい人も多い地域

では、その社会の姿はかなり違います。
だから、社会のウェルビーイングを考えるときには、

「平均的にどのくらい幸せか」だけでなく、
「とても低いウェルビーイングの状態にある人が、どのくらいいるのか」


を見ることも重要になります。
UK Wellbeing Report 2026は、2020年代のイギリスについて、ウェルビーイングを政策の中心に置かなければ「失われた10年」になりかねないと警告しています。World Wellbeing Movement


🐢ウエルのひとこと:

「イギリスの幸福度」って、ひとつの数字で決まるわけじゃないんだね。

国の平均を見ることも大切だけど、
その中には、いろいろな地域と、いろいろな暮らしがあります。

「みんなの平均はどう?」だけじゃなくて、
「つらいところにいる人はいない?」って見ることも大切なのかも。


幸せを測るって、数字をひとつ出して終わりじゃないんだね。


今日のレポート

Maria Cotofan
UK Wellbeing Report 2026
World Wellbeing Movement, with contributions from researchers including the Wellbeing Research Centre, University of Oxford

2026年7月に公開された報告書で、英国の生活満足度の推移や地域差、「happiness poverty」などを分析しています。WRCの研究一覧でも2026年7月16日付で紹介されています。ウェルビーイング研究センター

UK Wellbeing Report 2026 — World Wellbeing Movement

人を助けるなら、「幸福」も測るべき?
――Effective AltruismとQALYの先

2026.9.16 │

「できるだけ多くの人を助けたい」。

そう考えたとき、ひとつ難しい問題があります。

どの支援が、どれくらい人の人生を良くしたのか。

限られたお金や時間を使うなら、その効果を比べるための「ものさし」が必要になります。

医療や公衆衛生の分野で広く使われてきた代表的な指標のひとつが、QALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年)です。

簡単にいえば、

「どれだけ長く生きられるか」と「その期間をどの程度健康に過ごせるか」

を組み合わせて考える方法です。

でも、人の人生が「良くなる」ということは、健康だけで捉えられるのでしょうか。


「健康」と「幸福」は、同じではない

たとえば、ある支援によって病気になるリスクが下がった。

これはもちろん、とても重要な変化です。

けれど別の支援によって、

孤独が減った。
安心して暮らせるようになった。
人生への満足度が高まった。
つらい気持ちが軽くなった。


という変化が生まれることもあります。

こうした変化は、人の人生にとって大切であっても、健康状態を中心としたQALYだけでは十分に捉えにくい場合があります。

そこで近年、Effective Altruism(効果的利他主義)の領域などでも注目されているのが、主観的ウェルビーイングそのものを、支援の効果を測る尺度として利用する考え方です。


WELLBYという「ものさし」

その代表的な考え方のひとつが、WELLBY(Wellbeing-Adjusted Life Year)です。

考え方は比較的シンプルです。

人が「自分の人生にどのくらい満足しているか」といったウェルビーイングの変化と、その変化がどのくらい続いたかを組み合わせて、支援の効果を考えます。

つまり、

「何年長く生きられたか」だけではなく、
「その人生を本人がどのように経験しているか」も測ろう


という発想です。

これによって、医療だけでなく、メンタルヘルスへの支援、貧困対策、社会的つながりをつくる取り組みなど、異なる分野の介入をウェルビーイングという共通の観点から考えられる可能性があります。


「何を測るか」は、「何を大切にするか」

もちろん、幸福をひとつの数字にして、すべての支援を単純に比較できるわけではありません。

人によって幸福の感じ方は違いますし、文化による違いもあります。

健康、自由、安全、公平性、尊厳など、人生にはウェルビーイングの点数だけでは捉えきれない価値もあります。

それでも、

支援によって、人の人生が実際にどれくらい良くなったのか。

その問いに本人の感じる幸福や生活満足度を含めて考えることには、大きな意味がありそうです。

測定の方法を選ぶことは、単なる技術的な問題ではありません。

それは同時に、

「私たちは、人の人生の何を大切なものとして数えるのか」

を決めることでもあるからです。


🐢ウエルのひとこと:

人を助けた「数」だけじゃなくて、
助けられた人の毎日がどう変わったのかも、大切なんだね。


病気が治ることも、長く生きられることも大切。

でも、

安心できること。
誰かと笑えること。
「今日も悪くなかったな」と思えること。


そういうものも、「人生が良くなった」の中に入っていてほしいな。

「良い人間関係」は、なぜ幸福に大切?
――ハーバード成人発達研究から

2026.9.15 │

「幸せな人生にとって、何がいちばん大切なのだろう?」

お金でしょうか。

仕事での成功でしょうか。

健康でしょうか。

それとも、人とのつながりでしょうか。

この問いを、一人ひとりの人生を何十年にもわたって追い続けることで調べてきた研究があります。

1938年に始まった、Harvard Study of Adult Development(ハーバード成人発達研究)です。

現在では、当初の参加者だけでなく、その配偶者や子どもたちへと研究対象を広げながら、人の健康や幸福を長期的に追跡しています。2025年時点で研究は87年目を迎え、参加者は子孫などを含め約2,500人に広がっています。Harvard Gazette


長い人生を追いかけて、見えてきたこと

この研究から繰り返し浮かび上がってきた重要な発見があります。

それは、

良い人間関係を持つ人ほど、より幸福であるだけでなく、より健康で、長く生きる傾向がある

ということです。Harvard Gazette

研究責任者のRobert Waldinger教授らが、参加者が80代になったときに、それまで蓄積してきたデータを振り返ってみると、興味深いことがわかりました。

50歳の時点で、その後の健康や幸福を予測していた重要な要素のひとつは、血圧やコレステロール値ではありませんでした。

人間関係にどのくらい満足していたかだったのです。Harvard Gazette


大切なのは、「人がたくさんいること」ではない

ただし、これは、

「友達は多ければ多いほど幸せ」

という話ではありません。

Waldinger教授が強調しているのは、人間関係の「質」です。

家族、友人、パートナー、地域の人たち――。

人数そのものよりも、

「困ったとき、この人なら頼れる」
「自分のことを気にかけてくれる人がいる」


と思えるような、温かく支え合える関係が重要だと考えられています。Robert Waldinger

そして、良い関係だからといって、いつも仲良く、まったく喧嘩をしない必要があるわけでもありません。

研究では、高齢になっても言い争う夫婦であっても、いざというときには相手を頼れると感じられていれば、その関係が重要な支えになっていたことも紹介されています。Harvard Gazette


なぜ、人間関係が「身体」にまで関係するの?

ここが、とても面白いところです。

良い人間関係が幸福につながるのは、なんとなく想像できます。

でも、なぜ身体の健康にまで関係するのでしょう。

研究者たちが注目しているメカニズムのひとつが、ストレスの調整です。

私たちは嫌なことや不安なことがあると、身体がストレス反応を起こします。

そんなとき、話を聞いてくれる人や、頼れる人がいると、興奮した心身が元の状態へ戻っていくのを助けてもらえます。

一方、孤立していてストレスを一人で抱え続ければ、身体がストレス状態にとどまる時間も長くなりやすい。

Waldinger教授らは、こうした日々のストレスを人間関係が調整してくれることが、長い年月を通して身体の健康にも影響する可能性を研究しています。Harvard Gazette


人間関係にも「手入れ」がいる

Waldinger教授と研究チームは、social fitness(ソーシャル・フィットネス)という考え方も紹介しています。

身体の健康のために運動を続けるように、人間関係も、一度つくれば終わりではありません。

久しぶりの人に連絡してみる。

誰かと食事をする。

話を聞く。

少し疎遠になった関係を、もう一度つないでみる。

そんな小さな行動を重ねて、人とのつながりも日々手入れしていくという考え方です。Robert Waldinger


🐢ウエルのひとこと

人とのつながりって、楽しいから大切なだけじゃないんだね。

困ったときに頼ったり、話を聞いてもらったり。

そうやって、一人では抱えきれないものを、少しずつ支え合っている。

人間関係も、からだを大切にすることと同じように、少しずつ育てていくものなのかもしれないね。


今日の研究

Harvard Study of Adult Development

1938年から続く長期研究で、人々の身体的・精神的健康、人間関係、仕事などを長期にわたって追跡しています。現在の研究責任者はHarvard Medical SchoolのRobert Waldinger教授です。Harvard Health

Harvard:Relationships make us happy — and healthy

SNSと幸福の関係は、国や性別でも違う?
――世界の若者を比較する

2026.9.14 │

「SNSを使いすぎると、幸福度が下がる」

そんな話を耳にすることがあります。

でも、世界の若者を比べてみると、どうやらそれほど単純ではないようです。

World Happiness Report 2026では、SNSと若者のウェルビーイングについて、国や地域、性別などの違いにも注目しています。世界幸福報告


47か国、27万人以上の15〜16歳を調べると

2022年のPISA調査を使った分析では、47か国、27万人以上の15〜16歳について、SNSを使う時間と生活満足度との関係が調べられました。

すると女子では、SNSの利用が1日1時間未満の「light users」で平均的な生活満足度がもっとも高く、それ以上利用時間が長くなるにつれて低くなる傾向が見られました。

ところが男子では、同じような傾向が明確に見られたのは、主に西ヨーロッパと英語圏でした。世界幸福報告

つまり、

「SNSを何時間使ったか」だけを見ても、その人のウェルビーイングとの関係は十分にはわからない。

性別や暮らしている地域によっても、そのパターンは違っていたのです。


同じ「7時間以上」でも、地域によって違う

さらに興味深い違いがあります。

1日7時間以上SNSを利用する若者と、1時間未満の若者を比較すると、西ヨーロッパの女子では生活満足度に10点満点で約1ポイントの差がありました。

これは西ヨーロッパ以外の女子で見られた差の約2倍です。

男子では、西ヨーロッパで約0.5ポイントの差があった一方、それ以外の35か国では平均するとほとんど差がありませんでした。世界幸福報告

同じSNSを、同じくらい長時間使っていても、その利用とウェルビーイングとの関連は世界共通ではないのです。


若者の幸福度が下がっているのも、世界共通ではない

ここも大切です。

SNSが世界中に広がった一方で、若者の幸福度が同じように世界中で低下しているわけではありません。

World Happiness Report 2026によると、2006〜2010年と2023〜2025年を比べた136か国のうち、85か国では25歳未満の生活評価がむしろ高くなっています。

若者のウェルビーイングが大きく低下しているのは、特に米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの英語圏と西ヨーロッパです。世界幸福報告

そのため報告書は、国ごとのSNS利用時間だけでは、若者の幸福度の地域差を説明できないとしています。

SNSだけを見るのではなく、使い方、プラットフォーム、文化や社会経済的な環境、そして人とのつながりや居場所など、より広い背景を見る必要があるということです。世界幸福報告


「SNSは良い?悪い?」から、もう一歩先へ

SNSとウェルビーイングについて考えるとき、

「SNSは人を不幸にするのか?」

という一つの問いだけでは、見落としてしまうことがありそうです。

それよりも、

誰が使っているのか。
どこで暮らしているのか。
何に使っているのか。
どのくらい使っているのか。
そして、SNSの外にどんな人間関係や居場所があるのか。


そうした違いを一緒に見ていく。

世界の若者を比較することで、SNSと幸福の関係の複雑さが少しずつ見えてきます。


🐢ウエルのひとこと

同じSNSを使っていても、みんなに同じことが起きるわけじゃないんだね。

「SNSは良い」「SNSは悪い」と一つに決めるより、

どんな人が、どんな場所で、どんなふうに使っているのか。

そこまで見てみると、ウェルビーイングとの関係も違って見えてきそうです。


今日の研究

Jean M. Twenge, Alexis Diomino & Alana Rio
Adolescent life satisfaction and social media use: gender differences in an international dataset
World Happiness Report 2026, Chapter 5 世界幸福報告

World Happiness Report 2026:Chapter 5を読む

人生は本当に「U字型」に幸せになる?
――変わりつつある幸福の年齢パターン

2026.9.13 │

「人は何歳くらいのときに、いちばん幸せなのでしょう?」

幸福研究では長いあいだ、年齢とウェルビーイングの間には、「U字型」の関係があると報告されてきました。

若いころには比較的高かった幸福度が、年齢とともに少しずつ下がり、中年期に底を迎え、その後、再び上昇していく――。

実際、過去の大規模な国際研究では、多くの国でこうしたU字型のパターンが観察されています。145か国を対象とした研究でも、さまざまな条件を調整した分析で、中年期の50歳前後に幸福度の谷が現れることが報告されました。PubMed Central (PMC)


ところが、「U字」が変わってきた?

最近の研究では、この長く知られてきた年齢パターンに変化が見られています。

大きな理由のひとつとして注目されているのが、若い世代のウェルビーイングの低下です。

従来は、「若いころは比較的幸福度が高く、中年期に向かって低下する」というのがU字型の左側でした。

ところが若年層のメンタルヘルスやウェルビーイングが低下すると、そもそも左側の高いところから始まらなくなります。

2020〜2025年の44か国のデータなどを分析した近年の研究では、「不幸・不調(ill-being)」が中年期に最も高くなる従来の山型ではなく、若い年代ほど高く、年齢とともに低くなるパターンが報告されています。Institute for Fiscal Studies

つまり、

「若者は比較的幸せで、中年期がいちばんつらい」

という、これまで繰り返し観察されてきた年齢パターンそのものが、変わっている可能性があるのです。


「年齢を重ねればこうなる」とは限らない

ここで面白いのは、幸福と年齢の関係を、単純な「人生の法則」と考えないほうがよさそうだということです。

最新の研究でも、分析方法によって年齢と幸福の軌跡にはかなり違いが生じることが指摘されています。最近の方法論研究は、過去の研究ではU字型だけでなく、右肩上がり、右肩下がり、波型など、さまざまなパターンが報告されてきたと整理しています。OUP Academic

そして2026年の別の研究では、「働いている人」に限ると、103か国でウェルビーイングが年齢とともに高くなる傾向が確認されました。一方、働いていない人では異なるパターンが見られ、調査方法による違いもありました。NBER

年齢だけではなく、世代、時代、働き方、社会環境などによっても、幸福の年齢パターンは変わりうる。

そう考えると、「人生はU字型」というきれいな一本の曲線よりも、実際の人間の幸福はずっと複雑なのかもしれません。


🐢ウエルのひとこと

「何歳になったら幸せになる」って、最初から決まっているわけじゃないんだね。

U字型って聞くと、人生そのものに決まった形があるように思えるけれど、その形まで時代によって変わることがある。

だったら、若い人たちの幸福度が下がっていることも、「若い時期だから仕方がない」で終わらせないことが大切なのかも。

みんながどんな環境で生きているのかまで、一緒に考えてみたいです。


今日の研究

今回の背景として紹介しやすいのは、2026年のBlanchflower・Bryson・Xuによる研究です。2020〜2025年の44か国のデータを用い、従来見られていた年齢とill-beingの山型パターンが消え、若年層の不調の高さを背景に、年齢とともに低下する形へ変化していることを報告しています。Institute for Fiscal Studies

The declining mental health of the young and the global disappearance of the unhappiness hump shape in age

バーンアウトは、現代だけの問題ではない?
――ヴィクトリア時代の「overwork」

2026.9.12 │

「バーンアウト(燃え尽き)」と聞くと、

長時間労働、メールやSNS、絶え間ない情報、いつでも仕事につながっている生活――

そんな現代社会ならではの問題のように感じます。

ところが、100年以上前のヴィクトリア時代の英国でも、人々はよく似た問題を心配していました。

当時使われていた言葉のひとつが、

“overwork(過労・働きすぎ)”

です。

オックスフォード大学のSally Shuttleworth教授は、ヴィクトリア時代の人々が「overwork」をどのように捉え、どう対処しようとしていたのかを紹介しています。WRCも、「バーンアウトは新しい概念ではなく、新しい言葉をつけただけ」として、この歴史を紹介しました。LinkedIn


19世紀にも「速すぎる社会」があった

ヴィクトリア時代は、産業化が急速に進んだ時代です。

鉄道が人々の移動を速め、電信によって遠く離れた場所とも急速に情報をやり取りできるようになりました。

便利になった一方で、

社会のスピードが速くなり、人間の頭や身体に大きな負担がかかっているのではないか

という不安も生まれていました。Zoomer

現代の私たちが、

「メールが次々に届く」
「情報が多すぎる」
「仕事から離れられない」

と感じることと、どこか似ています。

技術は違っても、

「社会の進歩に、人間の心と身体がついていけるのか?」

という問いそのものは、ずっと以前からあったようです。


「働きすぎ」は、健康の問題だった

1873年、英国の医師C.H.F. Routhは、

On Overwork and Premature Mental Decay: Its Treatment

という本を出版しました。

タイトルをそのまま訳せば、「過労と早すぎる精神の衰え、その治療」といった意味です。この本は1888年までに4版を重ねました。Zoomer

つまり当時すでに、「一生懸命働くこと」は単なる美徳としてだけではなく、

働きすぎることによって、人間の心身が損なわれる可能性

という観点からも考えられていたのです。


では、どうやって回復しようとした?

ここが、現代から見ると興味深いところです。

ヴィクトリア時代の裕福な専門職などには、過労からの回復のため、英国を離れて南フランスなどの温暖な土地で長期間療養することが勧められることがありました。

太陽、海辺の空気、静かな生活。

そして、仕事から距離を置くこと。

当時の医師は、働き続けるのではなく、意識的に何もしない時間をつくることにも意味を見いだしていました。オックスフォード大学による紹介では、その療養思想を象徴する言葉として “legitimate idleness”――いわば「正当な休息・何もしないこと」も紹介されています。LinkedIn

もちろん、こうした長期療養を実際に選べたのは、主として経済的余裕のある層でした。19世紀の「overwork」と現代のバーンアウトを、そのまま同じものとして扱うこともできません。

それでも、

「疲れ切った人を、さらに頑張らせるのではなく、仕事から離して休ませる」

という発想には、今にも通じるものがあります。

「休む」は、仕事をしていない時間ではなく
ここまで読んでいると、少し不思議な感じがします。

鉄道と電信が人間を疲れさせると心配していた19世紀。

インターネットやスマートフォン、AIの時代を生きる21世紀。

技術は大きく変わったのに、

「もっと速く」
「もっと働く」
「もっと情報を処理する」


という社会の中で、人間が疲れてしまう問題は繰り返されています。

だから、バーンアウトを個人の「頑張る力が足りなかった」とだけ考えるのではなく、

私たちを取り巻く仕事や情報、社会の速度そのものを見ること

も必要なのかもしれません。

そして休むことも、

「何も生み出していない時間」ではなく、心と身体が回復するために必要な時間

として考えてみてもよさそうです。


🐢 ウエルのひとこと:

100年以上前の人たちも、「働きすぎて疲れた」って言ってたんだね。

便利になったら、もっと楽になると思うのに、
便利になると、もっと速く動くようになっちゃうのかな。

がんばる時間だけじゃなくて、何もしない時間も、ちゃんと大切にしたいな。


今日の記事

Sally Shuttleworth, University of Oxford
Victorians called burnout ‘overwork’ – and they cured it by holidaying in France

WRCは、ヴィクトリア時代の「overwork」とその療養法を紹介するShuttleworth教授の記事を取り上げ、バーンアウトに似た問題が現代だけのものではないことを紹介しています。LinkedIn
Oxfordの「Diseases of Modern Life」研究プロジェクト

幸せには、「人を信じられること」も大切?
――人への信頼と制度への信頼

2026.9.11 │

私たちが安心して暮らすためには、
お金や健康だけでなく、

「周りの人を信じられる」

という感覚も大切なのかもしれません。

そして、もうひとつ。

自分たちの暮らす社会の制度を信頼できること。

オックスフォード大学ウェルビーイング・リサーチ・センター(WRC)は、幸福について考えるうえで、人への信頼と、社会を形づくる制度への信頼の両方に目を向けています。


「人を信じられる」ということ

たとえば、

知らない人に何かを頼んでも大丈夫だと思える。
困ったときには、誰かが助けてくれると思える。
周囲の人が、自分をだましたり傷つけたりするとは限らないと思える。

こうした感覚がある社会と、

「人を簡単に信用してはいけない」

と常に警戒しなければならない社会では、日々の暮らしの安心感もずいぶん違いそうです。

WRCが紹介した英国のデータでは、成人のおよそ3分の2が、他人への信頼を0〜10点で尋ねられたとき、6点以上と回答しています。

つまり、多くの人がある程度は「人を信頼できる」と感じていることになります。


では、「制度」は信頼できる?

一方で興味深いのは、政府への信頼です。

同じように0〜10点で尋ねると、6点以上の信頼を示した人は、他人への信頼の場合よりもかなり少なくなります。

ここには、

「周りの人は信頼できる。でも、制度や政府についてはそうとも限らない」

という違いが見えてきます。

ウェルビーイングを考えるとき、「人間関係」だけを見るのでは十分ではないのかもしれません。

私たちは、人と人との関係の中だけでなく、

行政、司法、医療、教育など、さまざまな制度のある社会の中で暮らしています。

だからこそ、

人を信じられることと、社会の仕組みを信頼できること。

その両方が、安心して暮らせる社会を考える手がかりになります。


「信頼」は、目には見えない社会の土台?

信頼そのものは、道路や建物のように目に見えるものではありません。

けれど、

「この人なら大丈夫そう」
「困ったら誰かに頼れる」
「必要なときには制度が機能してくれる」

と思えることは、日々の小さな判断にも関わっています。

反対に、誰も信用できず、制度も頼れないと感じれば、いつも自分ひとりで身を守らなければならなくなります。

幸福を支えるものというと、所得や健康、仕事などに目が向きやすいですが、

「自分が暮らしている社会を、どのくらい信頼できるか」

もまた、ウェルビーイングを考える大切な視点なのだと思います。


👦ウェルビーサポートくんのひとこと:

幸せって、自分ひとりの中だけでつくられるものではないんだね。

周りの人を信じられること。
困ったときに社会の仕組みを頼れると思えること。

「安心して人や社会を信頼できる」という、目には見えない環境も、ぼくたちのウェルビーイングを支えているのかもしれません。

職場のウェルビーイングは、どう測ればいい?
――「どう感じているか」と「なぜそう感じるか」

2026.9.10 │

「職場のウェルビーイングを高めよう」と言っても、
そもそも、それをどう測ればいいのでしょうか。

給与、福利厚生、勤務時間、休暇制度。

こうした条件を調べることもできます。

けれど、それだけで「その人が職場で幸せかどうか」がわかるとは限りません。

オックスフォード大学ウェルビーイング・リサーチ・センターのJan-Emmanuel De Neve教授とGeorge Ward博士は、職場のウェルビーイングを、

「仕事中に、そして自分の仕事について、私たちがどう感じているか」
という主観的な側面から捉えることを提案しています。
ウェルビーイング研究センター


まず、「どう感じているか」を測る

研究者たちが提案している基本的な指標は、4つです。

① Job satisfaction ―― 仕事への満足度
自分の仕事に、全体としてどのくらい満足しているか。

② Purpose ―― 意味・目的
自分の仕事に、どのくらい意味や目的を感じているか。

③ Happiness ―― 幸福感
仕事をしているとき、どのくらい幸せを感じているか。

④ Stress ―― ストレス
仕事をしているとき、どのくらいストレスを感じているか。

実際に研究者たちは、これらについて0から10までの尺度で尋ねる4つの質問を提案しています。World Wellbeing Movement

面白いのは、単に

「仕事に満足していますか?」

だけではないことです。

仕事を全体としてどう評価しているか。
日々、どんな感情を経験しているか。
そして、その仕事に意味を感じているか。

ウェルビーイングを一つの側面だけで捉えないわけです。
ウェルビーイング研究センター

でも、「どう感じているか」だけでは足りない
ここでもう一つ、大切な区別があります。

4つの質問からわかるのは、

「働く人が、いまどう感じているか」

です。

でも、たとえばストレスが高かったとしても、それだけでは、

なぜストレスが高いのか

まではわかりません。

上司との関係なのか。
仕事量なのか。
給与なのか。
柔軟性がないことなのか。
評価されていないと感じているのか。

そこで必要になるのが、ウェルビーイングを生み出している要因(drivers)を調べることです。

WRCの研究をもとにした職場ウェルビーイングの取り組みでも、まず「どう感じているか」を測り、さらに「なぜそう感じているのか」を調べることが重要だとされています。
World Wellbeing Movement


「測ること」と「原因を知ること」を分けて考える

これは、意外と大切なことなのかもしれません。

福利厚生制度が充実しているから、
きっとウェルビーイングも高いだろう。

在宅勤務ができるから、
きっと働きやすいだろう。

そう外側から決めるのではなく、
まず、

「実際に、そこで働く人はどう感じている?」

と尋ねる。

そして、そのあとに、

「なぜ、そう感じている?」

を調べる。
この二つを分けることで、職場のウェルビーイングをより丁寧に理解できそうです。


👦ウェルビーサポートくんのひとこと:

「良い職場」を、会社側だけで決めることはできないんだね。

制度や条件を見ることも大切だけれど、
そこで働いている人自身に、

「どう感じていますか?」

と聞いてみる。

そして、

「なぜ、そう感じるんだろう?」

まで考えてみる。

ウェルビーイングを測ることは、働く人の声を聞くことでもあるのかもしれません。


今日の研究

Jan-Emmanuel De Neve & George Ward
Measuring Workplace Wellbeing
Wellbeing Research Centre Working Paper 2303, University of Oxford, 2023. ORA

Wellbeing Research Centre:Measuring Workplace Wellbeing

週4日勤務なら、働く人は幸せになる?
――「時間を減らす」と「詰め込む」は同じではない

2026.9.9 │

「週4日勤務」と聞くと、

働く日が1日減る → 自由な時間が増える → ウェルビーイングも高まる

そんなイメージを持つかもしれません。

でも、「週4日勤務」には、実は大きく異なる働き方があります。

たとえば、

① 労働時間そのものを減らして、4日間働く

のと、

② これまでと同じ労働時間を、4日間に詰め込む

のとでは、同じ「週4日」でも意味が違います。

オックスフォード大学ウェルビーイング・リサーチ・センターのWilliam Fleming博士は、英国の長期的なパネル調査データを用いて、この違いとウェルビーイングとの関係を研究しています。
LinkedIn


「減らす」と「圧縮する」

前者は work time reduction(労働時間の削減)。

後者は work time compression(労働時間の圧縮) と呼ばれます。

「金曜日が休み」という結果だけを見ると似ていますが、圧縮型では、これまでと同程度の労働時間を、より少ない勤務日にまとめることになります。

つまり大切なのは、

何日働くかだけではなく、実際にどれだけの時間を、どのような形で働くのか。

ということです。

Fleming博士の研究発表では、この二つの働き方を、主観的ウェルビーイングや家庭内労働などの観点から比較し、英国の働く人々にとって両者が異なる結果と結びついていることが示されています。LinkedIn


では、ウェルビーイングへの影響は?

労働時間そのものを短くした人では、メンタルヘルスや余暇への満足など、複数のウェルビーイング指標の改善との関連が見られました。

一方、「圧縮型」では同様のプラスの効果は見られず、とくに女性では、ウェルビーイングの低下との関連が見られました。

また、働く時間への裁量が大きい女性では、圧縮型に伴うマイナスの影響が和らぐ傾向も示されています。

つまり、同じ「週4日」であっても、働く時間そのものを減らすことと、同じ時間を少ない日数に圧縮することは、ウェルビーイングの観点から同じではないようです。

この研究は、WRCのWorking Paper Seriesとして2026年8月に公開されています。


休みが増えても、仕事が濃くなったら?

これは、「週4日勤務」という言葉だけでは見えにくいところかもしれません。

仕事の日数を減らしても、

1日の労働時間が長くなり、これまでと同じ労働時間を少ない日数にまとめるのであれば、それは単純に「働く時間が減った」とは言えません。

だからこそ、週4日勤務の効果を考えるときには、

「4日になったか?」

だけではなく、

「総労働時間は減ったのか?」
「仕事の負荷はどう変わったのか?」
「自分で働く時間をコントロールできるのか?」


まで見る必要がありそうです。


👦ウェルビーサポートくんのひとこと:

「週4日」という数字だけでは、働きやすさは決まらないんだね。
休みを1日つくるために働く時間そのものを減らすことと、同じ労働時間を4日に詰め込むことは、同じではない。

“働く時間を減らす”とはどういうことなのか。
働く日数だけでなく、総労働時間や、自分で働く時間を選べることまで考えてみたいです。



今日の研究

William Fleming
Reduce or Compress? Panel Survey Evidence from the UK on Working Time Arrangements and Wellbeing
Wellbeing Research Centre, University of Oxford

WRCが紹介した研究発表では、労働時間の「削減」と「圧縮」を区別して、主観的ウェルビーイングや家庭内労働への影響を比較しています。

自動化されやすい仕事ほど、ウェルビーイングが低い?
――AIに任せたい仕事と、その先にある仕事

2026.9.8 │

昨日は、AIを使って人を置き換える「automation(自動化)」と、人の能力を広げる「augmentation(拡張)」について紹介しました。

では、そもそも――

AIによって自動化されやすい仕事をしている人たちは、今、仕事をどう感じているのでしょうか。

Wellbeing Research Centreが紹介したデータには、少し考えさせられる傾向があります。

│自動化されやすい職種ほど、職場のウェルビーイングを測る4つの指標すべてで、低い値を示していました。

WRCは同時に、重要な注意点も指摘しています。

いま幸福度の低い仕事が自動化されたからといって、その仕事をしていた人が、次にもっと意味があり、楽しい仕事に就ける保証はありません。


「つらい仕事をAIに任せればいい」だけではない

一見すると、

「人がやりたくない仕事をAIに任せれば、人間はもっと幸せになれる」

という未来を想像したくなります。

確かに、単調だったり、負担が大きかったりする作業をAIが担うことで、人がより創造的な仕事や、人との関わりを必要とする仕事に時間を使える可能性はあります。

でも、そこで大切になるのが、
「なくなる仕事」だけではなく、「そのあと、人にどんな仕事が残るのか」

という視点です。

仕事が自動化されることと、働く人のウェルビーイングが向上することは、同じではありません。

AI時代に考えたいのは、「何をなくすか」より「何を増やすか」
昨日紹介した automation と augmentation の違いも、ここにつながってきます。

AI導入を、
「人間の仕事をどれだけ減らせるか」

だけで考えるのか。

それとも、

「人がより良く働けるように、AIで何を増やせるか」

と考えるのか。

同じ技術でも、その問いの立て方によって、働く人にとっての未来はかなり違ったものになりそうです。


🌱 今日の問い

あなたの仕事の中で、AIに任せたいことは何でしょう。

そして反対に、

AIに任せることで生まれた時間を、何に使えたら、今より少し「良い仕事」になるでしょうか。


👦ウェルビーサポートくんの感想:

AIに仕事をしてもらうことが、
そのまま人の幸せにつながるわけではないんだね。

「何をAIに任せる?」だけじゃなくて、
「そのぶん、人は何をできるようになる?」

まで考えることが大切なのかもしれないね。

AIは「人の代わり」になるほど良い?
――automationではなく、augmentationという考え方

2026.9.7 │

こんにちは。

昨日は、仕事でAIを使うとき、
「AIを使うかどうか」だけでなく、「何に使うか」が大切

という研究を紹介しました。

今日は、もう一つの問いです。

AIは、人間の仕事をできるだけたくさん置き換えるために使うのがよいのでしょうか?

それとも、人間がよりよく働けるように助けるために使うのでしょうか?


🤖 Automation と Augmentation

AIの使い方を考えるとき、二つの言葉があります。

Automation(自動化)
→ 人がしていた仕事を、AIや機械に置き換える。

Augmentation(拡張・補強)
→ AIを使って、人間の能力や仕事を支える。

どちらもAIによって仕事を変える方法ですが、目指しているものは少し違います。

Wellbeing Research Centreは、
AIによるautomationを競うより、リーダーはAI augmentationを促すべきだ

という議論を紹介しています。

その選択は、従業員のウェルビーイングだけでなく、組織そのものの健全性にも、短期・長期の影響をもたらし得るとしています。


🧑‍💻 「人がいらなくなる」ではなく、「人に何ができるようになる?」

たとえば、これまで1時間かかっていた単純な作業をAIが10分で手伝ってくれたとします。

そこで、
「では、人を減らせる」

と考えるのがautomationに寄った発想だとすれば、

「空いた時間で、人はもっと大切な仕事ができる」

と考えるのがaugmentationに近い発想です。

同じAIでも、導入する目的によって、働く人が受け取るメッセージまで変わってきそうです。

実際、WRCは別の投稿で、企業がAIへの投資資金を確保するために人への報酬を削れば、従業員には「この組織に自分の安定した未来はない」というメッセージとして伝わり得る、という指摘も紹介しています。


🌱 AIで、人間を小さくする? 大きくする?

AIによって、人間がしなくてもよい仕事は、これから増えていくかもしれません。

それ自体が悪いわけではありません。

でもウェルビーイングの視点から考えるなら、

「AIで、どれだけ人を減らせるか」

だけではなく、

「AIによって、人に何ができるようになるか」

という問いも必要なのかもしれません。

AIの進歩と、人間のよりよい働き方。
その二つを対立させず、一緒に考えるのがaugmentationという発想です。


🐢 ウエルの感想

AIが自分の代わりになるのと、
AIが自分を手伝ってくれるのは、

似ているようで、ずいぶん違うね。

自分だったら、
「AIがいるから、前よりこんなことまでできるようになった!」

ってなる方がうれしいな。

AIがすごくなるほど、人間もできることが増えたらいいね。


今日の問い

あなたなら、AIに「代わってほしい仕事」と、「手伝ってほしい仕事」をどう分けますか?

そして、
AIによって空いた時間を、人間は何に使うとよりよく働けるでしょうか?

AIの価値は、人間の仕事をどれだけなくしたかではなく、
人間の可能性をどれだけ広げたか

という視点からも考えられそうです。


📖 今日紹介した記事

“Why Companies That Choose AI Augmentation Over Automation May Win in the Long Run”
Wellbeing Research Centreは、AIによるautomationとaugmentationという二つの道には、従業員のウェルビーイングと組織の健全性について、それぞれ短期・長期の含意があると紹介しています。

AIを使うと、仕事のウェルビーイングは上がる?
――大切なのは「使うかどうか」より、「何に使うか」

2026.9.6 │

こんにちは。

生成AIを仕事で使う人が増えています。

文章を書く。

情報を整理する。

アイデアを考える。

作業を効率化する。

では、AIを使うようになると、働く人のウェルビーイングも高くなるのでしょうか?


🤖 「AIを使っている」だけでは分からない

オックスフォード大学 Wellbeing Research Centreが紹介したMicah KaatsさんとGeorge Wardさんの研究では、職場でのAI利用とウェルビーイングの変化には関連がみられました。

ただし、その関係を考えるうえで重要だったのが、
「AIを、どんなタスクに使っているのか」

でした。

WRCは、その影響は行っているタスクの種類に大きく左右されると紹介しています。

つまり、
AIを使う → ウェルビーイングが上がる

と単純に考えることはできないようです。


🛠️ AIが「仕事を助けてくれる」とき

WRCは別の投稿で、この研究についてもう一つ興味深い点を紹介しています。

AIツールを仕事を遂行するための助けとして使っている人では、AI利用とウェルビーイングとの間に、ポジティブな関連を示す証拠があるというのです。

ここから見えてくるのは、

「AIを導入したか」ではなく、「AIによって人の仕事がどう変わったか」を見る必要がある

ということかもしれません。

面倒な作業が少し楽になったのか。

より大切な仕事に時間を使えるようになったのか。

それとも、仕事がかえって複雑になったのか。

同じAIでも、その使われ方によって働く人の経験は違いそうです。


🌱 「AIか、人間か」ではなく

AIについて考えると、
「AIが人間の仕事を奪うのか」

という大きな問いに目が向きがちです。

でも、日々の仕事のウェルビーイングを考えるなら、もっと身近な問いもあります。

AIは、今日の自分の仕事を少し良くしてくれただろうか?

速く終わっただけではなく、働きやすくなったのか。

少し余裕ができたのか。

より人間にしかできないことへ時間を使えたのか。

そんな視点からAIを見ることもできそうです。


🐢 ウエルの感想

AIを使えば、なんでも仕事が楽になると思っていました。

でも、何をAIに手伝ってもらうかで違うんだね。

自分だったら、

「これはちょっと大変だな」

っていうところをAIに手伝ってもらって、

自分は考えたり、人と話したりする時間を増やせたらいいな。


今日の問い

あなたが仕事でAIに任せたいのは、どんな作業ですか?

そして、その作業をAIが助けてくれたら、

空いた時間を何に使いたいでしょうか?

AIが仕事にもたらす価値は、単なる「速さ」だけではないのかもしれません。


📖 今日紹介した研究

Micah Kaats / George Ward
「AIと職場におけるウェルビーイング」


Wellbeing Research Centreは、職場でのAI利用とウェルビーイングとの関係は、AIをどのようなタスクに使うかによって大きく異なると紹介しています。

更新がゆっくりになっていて、お待たせしています。
少しずつ追いついていきますので、もうしばらくお付き合いいただけたらうれしいです。

今日もひとつ、ニュースレターを更新しました。

困ったとき、「頼れる人」はいますか?
――社会的支援とウェルビーイング

2026.9.5 │

こんにちは。

昨日は、SNSとウェルビーイングについて、
「何時間使ったか」だけでなく、「そこで何をしていたか」も大切なのでは?

と考えました。

今日は、そこからもう一歩、人とのつながりについて考えてみます。

もし本当に困ったことが起きたとき、
あなたには、頼れる人がいるでしょうか?


🤝 「知り合いの数」ではなく、「頼れる人がいること」

Wellbeing Research Centreが紹介しているのが、social support(社会的支援)です。

ここでいうsocial supportとは、
つらいときや困ったときに、頼ることのできる人がいること。

WRCは、これが人々のウェルビーイングにとって非常に重要だと紹介しています。さらに、人々の社会的関係の質は、国による幸福度の違いを説明するうえで、経済的な要因と同じくらい、しばしばそれ以上に重要だとしています。


☎️ 「いざというとき、誰に連絡する?」

友人が100人いることと、
困ったときに「この人に電話しよう」と思える人が一人いること。

これは、同じ「人とのつながり」ではありません。

実際、WRCが別の投稿で紹介したデータでは、
世界の若者のおよそ5人に1人が、社会的支援を求めて頼れる人が誰もいないと回答しており、その割合は2006年と比べて39%増えた

とされています。

人に囲まれていることと、支えられていると感じることは、必ずしも同じではないようです。


🌱 ウェルビーイングは、一人ではつくれない

もちろん、一人で過ごす時間が好きな人もいます。

大勢の友人が必要なわけでもありません。

でも、
「本当に困ったとき、自分は一人ではない」

と思えること。
それは、日々の安心感を支える大切なものなのかもしれません。

昨日のSNSの話とも、ここでつながります。

大切なのは、つながりの量だけではなく、
どんなつながりを持っているか。

SNSでも、日常生活でも、その問いは同じなのかもしれません。


🐢 ウエルの感想

友だちが何人いるかより、
「困ったよ」って言える人がいるか

の方が大事なのかもしれないね。

それなら自分も、
誰かが困ったときに、
「ウエルに言ってみようかな」
って思ってもらえる人になりたいな。


今日の問い

あなたが本当に困ったとき、誰の顔が思い浮かびますか?
そしてもう一つ。
誰かが困ったとき、あなたはその人にとって「頼れる人」になっているでしょうか?
ウェルビーイングを支えるものは、自分の中だけではなく、人と人とのあいだにもあるようです。


📖 今日紹介した情報

オックスフォード大学 Wellbeing Research Centre
“Social Support in the UK, 2022–2026”

Wellbeing Research Centreは、困難なときに頼れる人がいるというsocial supportが、人口全体のウェルビーイングにとって重要だと紹介しています。

SNSは、使う時間だけでは語れない?
――「何時間?」だけでなく、「どこで、どう使う?」から考えるウェルビーイング

2026.9.4 │

こんにちは。

「SNSを長時間使うと、ウェルビーイングによくない」

そんな話を聞くことがあります。

では、SNSとの付き合い方を考えるとき、利用時間だけを見ればよいのでしょうか?

World Happiness Report 2026では、もう少し複雑な姿が見えてきます。


📱 大切なのは「何時間?」だけではない

オックスフォード大学 Wellbeing Research Centreは、この研究を紹介する際、

SNSに費やす時間だけでなく、どの種類のプラットフォームを使うのか、そしてそこでどのように交流するのかによって、ウェルビーイングとの関連が異なる

と紹介しています。

同じ「1時間SNSを使った」でも、

誰かと会話した1時間と、

次々に表示される投稿を眺め続けた1時間。

同じものとして考えなくてもよさそうです。


🤝 SNSは「social」になっている?

そもそもSocial Mediaの「Social」は、人とのつながりを意味します。

SNSは、離れた友人と話したり、同じ関心を持つ人と出会ったり、知らなかった世界を知ったりする場所にもなります。

一方で、ただ次々と情報を見続けたり、他人と比較したりする場所にもなり得ます。

つまり、

「SNSを使ったか、使わなかったか」より、そこで何をしていたのか。

そこを見ることが大切なのかもしれません。


⏱️ 「SNSを減らそう」だけでは足りない

ウェルビーイングを考えるなら、

「今日はSNSを何時間見た?」

だけでなく、

「その時間に、私は何をしていた?」

と尋ねてみる。

誰かとつながったのか。

何かを学んだのか。

楽しいものを見たのか。

それとも、なんとなくスクロールし続けて疲れたのか。

同じSNSでも、その中身はずいぶん違います。


🐢 ウエルの感想

SNSを1時間見た、というだけでは分からないんだね。

友だちと「元気?」って話した1時間と、

なんとなくずっと画面を見ていた1時間では、

同じ1時間でも、心に残るものが違いそう。

「何分使った?」だけじゃなくて、

「何をしてた?」って聞くのも大事なんだね。


今日の問い

あなたがSNSを閉じたあと、どんな気分になっていますか?

楽しかった。
誰かとつながれた。
何かを知ることができた。

それとも、少し疲れた。

利用時間を測るだけでなく、使ったあとの自分の状態を観察することも、自分に合ったSNSとの付き合い方を知るヒントになるかもしれません。


📖 今日紹介した研究

World Happiness Report 2026

Wellbeing Research Centreは、SNSとウェルビーイングの関係について、利用時間だけでなく、プラットフォームの種類や、そこでの関わり方によって異なる結果と関連すると紹介しています。

幸せは「いくら持っているか」より「周りより多いか」で決まる?
――9万人超・109か国のデータから考える「所得順位」

2026.9.3 │

こんにちは。

「収入が増えれば、幸せになれる」

これは、とても自然な考え方です。

でも私たちは、自分がいくら持っているかだけでなく、

「周りの人と比べて、自分はどのくらいなのか」

にも影響を受けているのかもしれません。


💰 「金額」だけではなく、「順位」も?

オックスフォード大学 Wellbeing Research Centreが紹介した研究では、109か国・9万人を超える人々のデータが分析されました。

そこで注目されたのが、income rank(所得順位)です。

つまり、

「私はいくら稼いでいるか」

だけではなく、

「周囲と比べたとき、自分の所得はどのあたりに位置しているか」

という見方です。

研究では、ウェルビーイングはしばしば、絶対的な所得額よりも、この所得順位と強く結びついていることが示されました。


👀 なぜ「比較」が気になるのだろう?

同じ100万円でも、

周囲の多くの人が50万円を持っている世界と、
周囲の多くの人が200万円を持っている世界では、

自分の感じ方は違うかもしれません。

私たちは、お金そのものから得られる生活の便利さや安心だけでなく、自分が社会の中でどの位置にいるのかも感じながら暮らしているのでしょう。

Wellbeing Research Centreは、この研究を紹介する際、

“Comparison is the thief of joy.”

――「比較は喜びを奪う」

という言葉を添えています。


🌱 「もっと欲しい」の正体は?

もちろん、これは「お金は重要ではない」という話ではありません。

生活に必要なお金や、安心して暮らせる経済的な基盤は大切です。

ただ、ときどき感じる、

「もっと欲しい」
「もっと上でなければ」


という気持ちの中には、自分自身の必要だけではなく、誰かとの比較も混ざっているのかもしれません。

そう考えると、

「私は本当は、どのくらいあれば十分なのだろう?」

と考えてみることにも意味がありそうです。


🐢 ウエルの感想

100円持っていてうれしかったのに、

となりの子が500円持っていると知ったら、急に100円が少なく見えるのかな。

でも、自分の100円は減っていないよね。

比べる前と比べたあとで、変わったのはお金じゃなくて、自分の見え方なのかもしれないね。


今日の問い

あなたが「もっと欲しい」と思うとき、それは自分に本当に必要だからでしょうか?

それとも、誰かと比べているからでしょうか?

少しだけ比較から離れてみると、すでに自分が持っているものの見え方も、変わるかもしれません。


📖 今日紹介した研究

Wellbeing Research Centreが紹介した、109か国・9万人を超える人々のデータを用いた所得順位とウェルビーイングに関する研究。

研究では、ウェルビーイングはしばしば絶対的な所得額よりも、income rank(所得順位)と強く関連していることが報告されています。

自然環境は、どうやって私たちのウェルビーイングにつながる?
――「e-co-flourishing」を支える仕組みを研究から考える

2026.9.2 │

こんにちは。

昨日は、人間と自然がともによい状態になることを目指す「e-co-flourishing」という考え方を紹介しました。

では、自然環境は実際に、どのような仕組みを通して私たちのウェルビーイングとつながっているのでしょうか?

新しい研究が、これまでの研究をまとめて、その「間にある仕組み」を調べました。


🔍 「自然が良い」から、もう一歩先へ

自然と人の健康やウェルビーイングとの関連については、すでに多くの研究があります。

でも、
自然に触れる → ウェルビーイングが高まる

という関係が見つかったとしても、それだけでは「なぜ?」までは分かりません。

今回の研究では、既存の9件のシステマティックレビューをまとめる「アンブレラレビュー」を行い、自然環境と人間のflourishingをつなぐメカニズム(経路)を整理しました。対象となったレビューを合わせると、参加者は14万人以上にのぼります。


🌿 見えてきた、いくつかの「道」

研究からは、大きくいくつかの経路が見えてきました。

🧠 心理的な道
自然によって注意力が回復したり、ストレスが軽減したりする。

🤝 社会的な道
人との交流や社会的なつながりが生まれる。

🚶 身体的な道
身体を動かす機会が増える。

🌳 環境からの道
騒音や大気汚染などのストレス要因が減り、環境の質が高まる。

なかでも、今回もっとも一貫した支持が見られたのは、注意の回復やストレスの軽減などの心理的なメカニズムでした。社会的・身体的・環境的な経路については、結果がより混在していました。


🌏 でも、まだ「半分」しか分かっていない

ここには、とても興味深い課題があります。

e-co-flourishingが目指しているのは、
人間も、自然も、ともによくなること。

ところが今回見つかった9件のレビューは、すべて
自然 → 人間
という方向を調べたものでした。

人間の行動によって自然もよくなり、それがまた人間のflourishingにもつながる――そんな双方向の仕組みを同時に調べたレビューは、まだ見つからなかったのです。

さらに、現在の研究には横断研究や質的研究が多く、「この仕組みによってウェルビーイングが高まった」と因果関係まで確かめられる証拠は、まだ十分ではありません。

つまり、e-co-flourishingは、これから研究が育っていく領域でもあるようです。


🐢 ウエルの感想

自然の中にいると気持ちいいのは、
「自然だから、なんとなくいい」
だけじゃないんですね。

落ち着いたり、歩いたり、人と話したり。
いろんな道を通って、元気につながっているのかもしれない。

でも今度は、
自然を元気にする道も知りたいな。


今日の問い

あなたが自然の中で「少し元気になった」と感じるとき、何が変わっているでしょうか?

気持ちが落ち着くこと。
身体を動かすこと。
誰かと一緒に過ごすこと。

それとも、周りの環境そのものなのでしょうか。


📖 今日紹介した研究

“Mechanisms underpinning flourishing at the interface of humans and other natural entities: an umbrella review”

この研究は、自然と人間のflourishingをつなぐ既存の研究レビューを統合し、心理的・社会的・身体的・環境的なメカニズムを整理しました。一方、因果関係を示す証拠や、人間と自然の双方のflourishingを同時に扱う研究はまだ十分ではないことも示しています。

人間だけが幸せなら、それでいい?
――人と地球のウェルビーイングを一緒に考える「e-co-flourishing」

2026.9.1 │

こんにちは。

9月最初のニュースレターは、少し視野を広げて、「人間と自然のウェルビーイング」について考えてみます。

私たちは普段、「ウェルビーイング」と聞くと、人が幸せであることや、心身ともに良い状態であることを思い浮かべます。

でも、
人間だけが幸せなら、それで「良い社会」といえるのでしょうか?


🌏 人と自然を、別々に考えない

2026年7月、The Lancet Planetary Healthに、オックスフォード大学の研究者らによる新しい枠組みが発表されました。

その名前は、
Ecological-Collective-Flourishing(e-co-flourishing)
です。

この考え方では、人間の flourishing(よく生き、よく育つこと)を、自然の生態系や、そこに存在する人間以外の生命の flourishing と切り離して考えません。

自分たちがよく生きることと、自然もまたよい状態であることを、一緒に目指そう。
それがe-co-flourishingの基本的な発想です。


🌱 「自然は人間のためにある」だけではない

たとえば、緑のある場所を歩いて気分がよくなったとします。

これは、
自然 → 人間のウェルビーイング
という関係です。

でもe-co-flourishingが考える範囲は、そこだけではありません。

人間の活動によって、植物や動物、生態系もまた、よりよい状態になれるだろうか。

つまり、
人間も自然も、ともによくなる関係をつくれないか

と考えます。

研究チームは、気候変動などの生態学的な危機と社会的な危機が重なる現在、人間だけを中心にした従来の「進歩」の考え方には限界があると指摘しています。


🔄 「私」から「私たち」、そして地球へ

昨日まで紹介してきたJan-Emmanuel De Neve教授の対談では、

“I” から “We” へ。
「私」だけでなく、「私たち」へ視点を広げることが、ウェルビーイングのヒントとして語られていました。

e-co-flourishingは、そこからさらに視野を広げます。

私 → 私たち → 私たちが生きる自然や地球へ。

ウェルビーイングは、一人の人間の内側だけにあるものではない。
そんな考え方が、少しずつ広がっているようです。


🐢 ウエルの感想

人間が幸せになるために、自然を大切にするんだと思っていました。

でも、
自然もいっしょに元気になることが、最初から「幸せ」の中に入っている
って考えることもできるんですね。

人間だけじゃなくて、木や海や生き物もいっしょに「いい感じ」だったら、そのほうがいいなあ。


今日の問い
あなたが考える「良い未来」の中に、自然やほかの生き物のウェルビーイングも入っていますか?

明日はもう一歩進んで、
自然は、どのような仕組みで人間のウェルビーイングとつながっているのか?
研究から見てみたいと思います。


📖 今日紹介した研究

Maloney, S., Moore, J., Wilhelm, K., et al. (2026)
“Ecological-collective-flourishing (e-co-flourishing): a framework to guide innovation and research”
The Lancet Planetary Health

研究チームは、人間のflourishingと自然生態系・人間以外の生命のflourishingをともに追求する「e-co-flourishing」の枠組みを提案しています。

9月のニュースレターへようこそ
2026.9.1 │

こんにちは。

9月から、ニュースレターのページを新しくしました。

これまで2ヶ月ごとを目安にページを分けていましたが、1日ごとのニュースレターも少しずつ充実してきて、ページもずいぶん長くなってきました。

そこで、これからは1ヶ月ごとを目安に、新しいページに移っていこうと思います。

読みたい日のニュースレターも、少し見つけやすくなるとうれしいです。

9月も、研究や日々の出来事から、ウェルビーイングについて一緒に考えていきます。

今月も、どうぞよろしくお願いいたします。