2023-05-26

茂木健一郎×北川拓也: ChatGPTの次の次は量子AI – PIVOT対談前半

【「尊敬する力が強い」人は、成果を出すようになる】
行動につなげるためには、話し相手をちゃんと尊敬することだ。この人は自分の知らないことを知っている。時間を使って面白い話をしてくれている。頑張って聴こう。聞いたことを後で見返してみよう。

「尊敬する力が強い」人は、成果を出すようになる。 これを見て、日本では「謙虚であれ」という文化ができたんだと思う。


by 北川拓也氏 tweet 一部抜粋

ライティングのエキスパートである、お師匠さんはこう言います・・・

PIVOT エクストリームサイエンス。この番組はビジネスに不可欠なサイエンスとテクノロジーの知識エクストリームをとことんまで追求していく番組です。

2023.05.23 │ PIVOT 公式チャンネル

いま話題の「AIと量子コンピュータ 理解不能の未来」。今おきているAI事情の背景を垣間見ることができます!

:北川さんはずっと前にハーバードで物理やってたときに、ある女性編集者がハーバードにすごい天才がいるって。今、天才って安売りされてるじゃん日本て。単にハーバードとか、どっかの准教授やってた天才みたいな。彼は本当に、その時点で凄まじい業績を上げていて。

:すごい方でハーバードで博士号取られて、理論物理学者さん、その後、楽天CDO(chief data officer)で、今はWell-being For Planet Earth の理事、いろんな会社も立ち上げられて世界を変えようとしています。

:失敗しますけど、やってます。

:今、何に一番力を入れてらっしゃるんですか?

:今、僕の理論物理やってた頃の指導教授が始めている量子コンピュータの会社の顧問をやってまして。そこにだんだん力を入れ始めてる、っていう感じですね。

量子:物理的な量が離散的な最小単位で存在すること。量子力学の理論や量子的な現象を表現するために使用されます。量子は、エネルギー、光子、電子などの基本的な要素の振る舞いを説明するための概念です。

量子コンピューティング:量子的なアイデアや原理を利用して情報処理を行うコンピューティングの手法。量子コンピュータは、古典コンピュータとは異なるアルゴリズムや計算手法を使用し、高速な計算や特定の問題の解決において優位性を持つ可能性があります。具体的には、量子コンピュータは量子ビット(キュービット)を使用し、これにより一度に複数の計算を並列して行うことができます。これにより、古典コンピュータでは非常に時間がかかる問題を高速に解決することが期待されています。

:それってハードも持ってるんですか?

:ハードを作ってる会社です。

:何Qビットくらいの?

:今256QビットのマシンがAWS(クラウド)上に乗ってます。使えます。

QuEra The Aquila magneto-optical trap in QuEra’s facilities

:すごく興味あるんですけど。会社ですよね。だから、誰か投資してるんだと思うんですけど、クオンタムコンピューティング(量子コンピューティング)って正直いつペイオフするかって予想しにくいとこないの?

:おっしゃる通りですね、めっちゃ時間かかる領域ですね。なんで、量子コンピュータって本当にできてしまえば暗号解読したりとか、世の中の触媒とかケミストリー(化学反応)の実験を1万倍加速するみたいな力があるので、100兆とか200兆みたいなマーケサイズがあるんですけども。それができるまでは、あまり役に立たないみたいな。極端なマーケットを描くので。

そこまでお金は兎に角、我慢して投資が基本ではありますね。当然お客さんにサービス提供して払っていただく、っていうのをちょっとずつ始めはするんですけれども。本当にできた後の桁とは全く違ってくる、って感じです。

:今年の科学技術の話題っていうとChatGPTに代表されるジェネラティブAI だと思うんですけど。どうですか。

:めちゃめちゃ面白いっすね。逆に茂木さんの意見を聞きたいっすよね。

:僕はまさに量子コンピュータとの絡みで、この1日-2日に出てきてるのが、幸ってるというかスケールする意味においてはGPT4で、GPT5はかなりきついっていうか。だから、たとえば量子決算をはじめ何か他のことを考えないと、この先いけないんじゃないかって議論も出てきたんですが。

:ちょっと説明していいですか?まず量子コンピューターが、まさにGPTに仕えるかっていう議論があって。これが僕のアドバイザーの1人であるミハイル・ルーキン先生のポスドクの人が去年、実は証明した定理が…

トランスフォーマー(ロボットから車や飛行機や生き物に変形・擬態する能力)っていうDPT(データ保護技術)のもとになっているモデルを量子コンピュータで作ると…。今ってGPTって1兆パラメーターとか必要で、めちゃくちゃ多い。それが少なくとも100万ぐらいまで、もっと減る可能性がある、っていうふうな証明があった。

証明って変な話なんですけどね。そんなの証明できるのかって感じですけど。条件によっているので結果自体は多分、これからも変わる可能性あるんですけど。一番面白かったのはその証明の仕方で。

そこで使ったコンセプトっていうのが、量子力学っていうものには量子文脈といわれるリソースがある、って言われているんです。何かっていうと量子的なものっていうものは、より文脈を表現する力が強いっていう数学的な値があるんです。

これを使って、トランスフォーマーって何がすごいかというと文章の中で、あるキーワードが持つ意味を文脈によって読み替えることができる、っていうのはトランスフォーマーと他のニューロンネットワーク(人間の脳の神経回路の構造を数学的に表現する手法。 語源は脳内の神経細胞「ニューロン」。主に、音声や画像などのパターンを認識する際に活用)との違いだったので。

つまり、文脈を表現するのが大事なんだよね。量子力学って文脈表現がすごい豊かなんだよね。つきましてはトランスフォーマーをそのまま量子コンピューターでやったら、より少ないパラメーターでその文脈表現ができるようになりました、できるようになるはずですよ、っていう証明です。

:逆に言うと、今と同等のパラメータ数を用意すると、たとえば人間の脳より何桁も高い精鋭と高い文脈を実現できる可能性があるっていうことで。めっちゃ関係あるじゃないですか。

:そう。でも、これがわかったのが去年です。だから、AIと量子コンピューターの関係性ってあるだろうなってみんな思ったんですけども。ここまで密接にありうる、っていうのはあまりわかってなかった。ここで茂木さんに聞きたかったんですけど、人間の脳は古典コンピュータだけで再現できるのか。

:完全に否定してるじゃないすか。ただ、クォンタムスプリーマシー(quantum supremacy / 量子コンピュータが従来の古典コンピュータに対して特定の計算タスクを超越)みたいなものが、量子力学、量子コンピュータが圧倒的に古典的コンピュータに比べるとパフォーマンスが良いみたいなのが、クォンタムスプリーマシーみたいな感じで意識の計算で、なんらかの理由で古典計算より圧倒的に優れるんじゃないかっていう議論はあるかもしれない。

:多分チューリングの定理*とかによると、原理的には可能なんだと思うんですね。

チューリングの定理:計算可能性に関する理論的な主張。この定理は、計算可能な関数を帰納的関数のクラスやチューリングマシン、ラムダ計算などの計算モデルで表現できるという主張です。

この定理の要点は以下の通りです:
 計算可能な関数は有限のアルゴリズムによって表現可能である。
 コンピュータで実行可能な関数と同等である。

この定理は、計算理論やコンピュータ科学における基礎的な考え方であり、以下のように重要な意味を持っています:
 1. 計算可能な関数は、具体的な手順(アルゴリズム)により解決可能です。
 2. チューリングマシンという理論モデルは、コンピュータの計算能力を理論的に表現するための基本的な枠組みとなります。

ただし、チューリングの定理は証明されていない数学的な主張です。これまでに数々の計算モデルが提案されていますが、現代の計算理論やコンピュータ科学の発展は、この定理の妥当性を強く支持しています。つまり、計算可能性の概念は広く受け入れられ、さまざまな計算モデルが計算可能な問題を解くために使用されています。

ただ、どれぐらい計算時間かかるとか、どれぐらいメモリが必要かと言われると、もう絶対に現実的じゃない量が必要な可能性もある。

:宇宙の年齢より多いとかね。

:ここでいくつかヒントがあって、まず第一に クォンタムスプリーマシーって今お話しましたけど量子超越って言葉で、Googleが数年前に絶対に古典コンピュータでは計算しきれない計算を量子コンピュータでやった、っていう証明をNatureで出したんですね。

一番の肝は、量子コンピュータを使うと、古典コンピュータでは表現できない確率分布を生成できる、ってことなんですね。

当然これ人間の脳のクリエイティビティの関係性があるんじゃないかと僕は超仮説ですけど持ってて。つまり、古典コンピュータだと普通の分布しかないですね。でも、量子コンピュータやると、今まで見たことないような分布が生まれる。分布=クリエイティビティみたいなものなんで、こういうことが思いつくか思いつかないか、みたいな。そういうディスカバリーの要素があるとすれば人間のクリエイティビティが量子分布に基づいているという仮説はあるんじゃないか、と思うんです。

:おそらく今のトランスフォーマーは全部、無意識の計算。無意識の計算ていうか意識の認知って、ほぼカバーしていることの部分99%はいけると思うんですよ。残り1%、微妙なところが、なにかクリエイティビティと言っているようなもので。そこは、ひょっとすると量子力学までいかなくちゃいけないな、っていう。

:北川さんのキャラ設定を今、思い出してたんだけど。灘からハーバードだよね。実は今日、この収録の日の夜ですね。PIVOTの元のスピンオフする前の会社のNewsPicksで、佐藤ママっていう方と対談するんだけど。子ども全員、灘から東大理三に受からせた、っていうママがいるのよ。

どう思う?僕の感じだと最高の頭脳を持ってる人って物理とかコンピュータサイエンスとか数学に行くべきだ、っていう感じがあるのね。医学部、大事なんだけど…人間の命救うから。なんで日本って医学部が高いことになってるの?って。そもそもアメリカで偏差値って概念ないじゃん。俺の説では、医師の国家試験って国家の特選資格じゃん。だから、発展途上国型っていうか権威主義的っていうか。

:ハーバードは医学部、結構高いですよ。位は。

:わかってるけど、でも日本の受験の雰囲気ってどう?

:たとえば、アメリカって院から医学部なんですね。メディカル・スクールの立ち位置って日本の医学部の立ち位置に若干、似てるとこあったんで。特に中国を含めてアジア系の方は頂点なんですよ。お父さんお母さんが医者か弁護士か…弁護士はそこまでじゃないかな。医者になりなさい、って言われてる人は山のようにいるんで。

:アジアのカルチャーと相性がいいんじゃない?

:僕のルームメイトの双子もメディカルスクールを目指してたり。

:一方で、オープンAIのロシア系イスラエル系カナダ人の…(イリヤ・サツケバー主任科学者)、彼なんかは全然違う世界で生きてるじゃん。

:ロシア系の方はちょっと違いますよね。この量子コンピュータの会社は元々、ロシア系なんで。ミハイル・ルーキンっていうファウンダー(創業者)が元々、今アメリカ人ですけどもロシアから来たんで。

:日本とかアジア系の人は医学部大好きなんだね。

:僕、お医者さんは、年を取るにつれ尊敬の念はだいぶ上がりました。僕、ちょっと反骨精神あるんで、まさに高校でみんな医学部行きたいって言ってると反骨精神ある身としては、てか天邪鬼な身としては「ケッ」みたいな(笑)。

:でも、当時ハーバード行ったの珍しいよね。

:そう、僕が初めてですね。磯川塾に行って…姉が行ってたんですね。よかった、っていう話で。

:普通、東大とか目指すじゃないすか。天邪鬼だったってことですか?

:灘からハーバード行ったのは、もうちょっと純粋な気持ちでした。世界の中心は、もう日本じゃないと。世界の中心は最高峰の学部に行かないと世界が見れない、っていうすごい純粋な気持ちで

:北川くんが帰国した直後に編集者が、すげえのがいるって。帰ってきて、楽天入る直前だったかな。喋っててすごく印象に残ってるのが、数学めっちゃ勉強してた頃って論文とか教科書を読みながら寝落ちして目が覚めたらまた読み始める、みたいなこと言ってたよね。

:論文もう20本くらい書かれてますよね。

:物理学者ですからね。

:集中力っていうか。誰かも言ってた。それこそ賞取ったような人かな、数学はコーヒー入れて、さあ考えようかって考えるんじゃもう駄目で、寝る前までずっと考えて、寝てる間も考えて、目が覚めた後も考えてるくらいじゃないと駄目だって。

:やっぱり偏りますけど。性格とか時間に対する概念が歪むんですよ、その生活をしてると。僕、奥さんにいつも怒られるんすけど。僕ね、結婚して子どももできて…人間になってきました。夜更かしも切り替えて。

:今、英語圏でのAIに関する事情を見てると本当に危機っていうか。ある雑誌では、ジハード(聖域)って強い言葉まで使われてました。つまり、ジハードって言葉を使わないといけないぐらいのAIの脅威。今日この収録日に入ってきたのか、ジェフリー・ヒントン(イギリス生まれのコンピュータ科学および認知心理学の研究者。出典:Wikipedia)が、Google 辞めたっていう。なんで辞めたかっていうと、要するに自由な立場からAIのことについて…特にAIのリスクについて議論したいと。

:おもしろい!

:そうなると、かつての北川くんみたいな偏ったやつがAIを作ってるとまずいじゃん。人間としての幅が。その辺り、どうなんですか?

:そう思いますね、さっき時間の話も言ったんすけど、どうしても急ぎがちなんですよね。研究者って何でも早くやりたがるんで。ただ早くって言われるのうちの嫁、大嫌いなんで。

:おもしろいね。どうやって合わせてるの?

:僕、まだせっかちなんすけど、でも人って物事をこなす時の時間概念が違うんで、時間概念の調節をした方が人間関係がうまくと。

:AIアライメント(Alignment: AIの目標が人間の価値や意図と一致するよう調整)って実は北川家で始まってる。北川さんはAIみたいなもんだから。奥さんはいわゆる人間だから。そこで、どうアライメントが成立するかどうか。

:でも発見は僕自身も、そっちの方が若干、幸せだって。イーロン・マスクとかもそうだと思うんすけども、やっぱり脅迫罪なんですよ。半分はやっぱり異常なんで、そういうことを成し遂げなければいけない、っていう思いを。いや、リラックスして良いんだったら、したいっていうのは若干、多分あるでしょうね。

:本当はリラックスしたいんだ、本当は。

:自分を取り戻したわけですね。

:そうなんですよ。ウェルビーイングとか財団やってて、財団のメンバー、諸藤さんとか、石川善樹さんとか、佐渡島さんとかと一緒に時間を過ごしてて教えてもらうことの1つでもありますね。

:確かに。

:でも、AIがこれ以上発達したときに人は幸せになるかどうかってのは、すごく大きなイシュー(課題)で。たとえば最近、東京でいろいろ広告見ると、これくらいジェネレーティブAIで作れちゃうよな、って思っちゃう。そうすると、今までそういう広告作ってた人っておそらく、もう仕事がなくなるじゃん。それって幸せなのか?

たとえば、南の島に行ってモデルさんがいて、みんなビール飲みながらこういうの明日撮ろうって実際に撮ってやってたのが、ジェネレーティブAIでモデルが南の島で新製品もってニコっと笑ってるってできちゃうってなったとき、それ幸せなんですかね、っていう。

:逆に、今までのサイエンスとか社会って人間の外にあるものの進化に結構フォーカスしてたと思うんですね。自動化したとか、自動車とか。でも、それができることによって外にある生成物は価値が相対的に減ったおかげで、身体の中、自分の精神状態とか自分自身をどうマネージするのか、っていうことの方が重要になってくる。だから、まさに脳科学の時代なんじゃないかな、と僕は思うんですけど。

:ニック・ボストロム教授のコストの論文で、5年ぐらい前かな?研究者にいろいろ聞いて、何がAIの発展のために知見として必要かっていうと圧倒的1位が認知科学(Cognitive Science)だったんです。けど、今のAIを見てると人間をはるかに超えちゃってるというか。アライアンス(提携)ってときにさ、ものすごく難しくなってる感じするんですけど。

:ついていけない感じがしますよね。

:どうなんですか、そのあたり。

:ちょっと話ずれるかもしれないですけど。僕の…田中秀宣っていうハーバード物理の後輩で、僕の思想の師匠がいて。天才なんですけど。今ハーバードとNTTの研究所にいる人なんですけど。

彼に教えてもらったのが今、脳科学の研究はこの1年で劇的に進んでいるんだと。なぜかっていうと、今まで脳科学って脳の侵襲型のやつをバッってぶつけて脳のシグナルを取る、っていうのはできてた。ただ、それが動物とか人の行動にどういう影響を与えてるかっていうのは、大学院生が一生懸命ノートを取るしかなかったんですね。すっごい時間がかかってたと。

でも、今はセンサーを動物の体に全部つけて、それだけじゃ駄目だと。プラス、そのシグナルからAIを使って、それがどういう行動とか、どういうアウトプットになってるか、っていうものをジェネレーティブAI(与えられた入力から新しいデータを生成することができるAI技術。画像、音声、文章など)で生成し直すことができるんですね。

そうすると、人の行動と脳の関係性っていうのが、より直接的にデータとして大量生成されることによって、この数年で一気に脳の働きの理解が深まるはずだ、って話もありまして。

:これからスケールしていく、っていうね。

:だから、ある意味シンギャラリティ(技術やAI 分野において、人間の知性や技術が指数関数的な速度で進化し、現在の知的な制約や予測が不可能な変化や転換点に到達するアイデア)のちょっと違った形で、ある意味、脳を理解するためにAIを使って、その理解を使ってAIをさらに進化させるっていう。AIと脳のある意味、相互作用の進化がかなり加速したと。

:その一方で、先日Tedに行ってた時に、“Here Comes the Sun” が流れてね。そのときエピファニー(突然のひらめき)というか…。ジョージハリソンの数少ないヒット曲の1つなんです。

あと、“While My Guitar Gently Weeps” とかね。

でも、ジョージハリソンだとしか言いようがない、もちろんビートルズなんだけど。そのときに、インディビジュアリティーって、AIの統計的学習とかデータをどんどん増やしてスケールしていったときに到達するのかなと思ったときに・・・

音楽に限らず小説でも絵画でも行かねーんじゃないかな、って。じゃあ、なんで行かないんだろう、っていう理由を考えるのは議論的にも実戦的にも大事な気がして。

今の後輩、田中さんが言ったディスガイズ(変化)した方法って間違いなく行くべき方向で。ある意味 遺伝子発現だとインシティチュート(始める)の試みをやってるんだと思うんだけど、でもそれは行ったときに北川っていうインディビジュアリティー(現存する実体と見なされた個人の個性)に到達するのか?っていうと方向性として、どうも違うなって。意外と僕はインディビジュアリティーに興味があって。どう思う?

:なんで興味あるんですか?

:たとえば、イーロン・マスクのパートナー(新恋人)のグライムスが、この1週間ぐらいで自分のボイスを提供して。AIで曲生成したら半分ちょうだいよ、って。だけど、どんどん使っていいよみたいな。しかもグライムズAIだったかな。自分の声を使ったAIエンジンまで。イーロンがやってるのかよくわかんないけど、ああいう話になってきてて。

アメリカの歌手の声を使ったのは本人の楽曲料はいい、っていうことになっちゃってる。あの辺りってどう思う?データをスケールしていくと機能が上がっていく、って話はいいんだけど。脳科学でも、いいんだけど。結局、脳ってAI 攻略したあと…論文としては駄目だから。北川くんの脳じゃないんだよね。みんなの脳を統計的に学習していく、って話になるんだけど、その方向性とインディビジュアリティーって違う気がして。

:インディビジュアリティーって結構、簡単に生成可能かなとは思っちゃうんですね。

:と思うじゃん。ジョージハリソンもいけるよって思うじゃん。気がするけど…でも本当かな?

:それを1つの説明する仕方として、インディビジュアリティーの僕の理解は2-50乗みたいな。だから人類全体、80億人を表現しようとしたときに、たとえば生物学的な男女とか、アメリカ国籍持ってる人、日本国籍持ってる人、みたいな。そういう感じで極端ですけど全部、二分割していったときに、その要素が何かあれば80億人全員が表現できるのか、っていったときに所詮、2-50乗とか50要素とか100要素あるだけで80億行っちゃうじゃないですか。

:パラメータ間隔として小さいってこと?

:そうなんですよ。

:なんでこんな話をするかっていうと、ビジネス的にも意外と重要で、この1ヶ月ぐらいで聞いた印象的な言葉が「チェスとか将棋のAI プログラマーが嘆いてる」って話で。今やAIの方が遥かに上いってんのにAlphaZero(アルファゼロ。DeepMindによって開発されたコンピュータプログラム)はやめちゃったけど、人間同士の対戦しかみんな熱狂しないっていう。


AlphaZero(人工知能)/ 出典:Wikipedia

じゃあ、これからジェネレーティブAIとかがコンテンツを作ってくじゃないすか。俺達、聞くか?って話じゃないですか。そうすると、インディビジュアリティーってことをディファイン(輪郭をはっきりさせる)しないとビジネス的にもいけないんじゃね?っていう。

:でも、今の話はどちらかと言うと“人の喜び”。だから、ウェルビーイングっていうのも根源的に人との関係性になるからだ、って理解しちゃうんですよね。人間同士の関係性にこそ結局、ウェルビーイングの本意があるから。

:個人というよりは、その関係性こそ価値がある、ってことなんですね。

:そう。だから、曲を聴くって何を聴いているかというと、その人の曲を聴いてるのであって、曲を聴いてるわけじゃないと。曲自体どれだけ興味あるかっていうと、20パーセントかなみたいな。

:じゃあ、仮想のアバターでもいいって話?

:やっぱり人であることは結構、大事だったりするのかもしれないです。

:その差は何ですか?

:これは僕、茂木さんにも聞いてみたいですけど、生物学的にエンコーディング(一定の規則に基づいて符号化)された、もう本能にエンコード(一定の規則に基づいて変換)されちゃってる気はするんで。

逆に、本能を騙すことができたら十分にありうると。ただ、心の底から、それが本能的に、その対象が「愛する」とか「関係性を持つ」に値すると思い込めなければ意味がない。

:本能的に人間って同じ個体が一緒にいると心地良いって感じる…

:って感じるじゃないですか、僕ら。プログラミングされてるじゃないですか。人間の進化論的に。っていうふうに思ったりしますけどね。

:なんで北川さんにこのことを聞いてみたいと思ったか、っていうとハーバードで文明のところにいるじゃん。日本て駄目じゃん。松尾豊さんなんかは日本でもLLBやるべきだって言ってるけど、ちょっと難しいとこもあるなと思って。最近、Google Bard がデモンストレーションしてて、すごいおもしろかったんだけど。60ミニッツ(アメリカCBSテレビが放送するドキュメンタリーテレビ番組)ですよ。


60ミニッツ / 出典:Wikipedia
何かっていうと、アーネスト・ヘミングウェイの有名な “6語からなる短編小説” っていうのがあるんです。

“For Sale, Baby Shoes, Never Worn ── 売ります。赤ん坊の靴。未使用”

すごくない?

:すごいですね。

:それを聞いた瞬間に、いろんなことが立ち上がるんですよね。ヘミングウェイがお金儲けしない、コンペだったのかな?それをGoogle Bard にプロンプトとして入れて「finish this story(小説を完成せよと指示)」ってやると、ずーーーっと出てくるのね。

:おもしろいおもしろい。

:おもしろいけど。ジェネレーティブAI は、そこはやれるわけじゃん。でもヘミングウェイがやったsix-wordって…出せるかもしれない。だから、パラメータの問題かも知れないけど、でもそこで北川さんが言ったみたいに「おーヘミングウェイなんかすげえな」って…

:顔が思い浮かんで、だから良いって思いますよね。

:そう、彼が言ったって感動するよね。
:茂木さん、説明するときに、まずヘミングウェイって言いましたから。

:ヘミングウェイって言わなかったら、あー普通の文章だなって思うかもしれないですけど・・

:日本人が行く道って、そこしかないのかなと思って。そこも一つのかなと。松尾芭蕉とかもそうだけれども。インディビジュアリティーっていうか、ユニークさ。それって一体、何なんだろう?ってときに、AIでオーギュメント(増加させる)ことができるのかと。どう思います?

:AI 反芻はできるでしょうね。だから、プロデュースはできないっていうか、生成するのはなかなか難しいでしょうね。

:難しい。それは、理論的には何なんだと思います?なぜジョージハリスンの “Here Comes the Sun” はジェネレーティブAIでは出しにくいのか。出しにくい、で済んだのかって。

:できるかできないかで言えば、最終的に僕はできる気はするんですけど。

:原理的には、できるわけだよね。

:原理的には、できると思うんですけど。

:でも、Contact Supremacy(至高性への問い合わせ)みたいな理由で、実は何かあるコンピレーション(編集・よせ集め)的理由でできない理由があるとすると面白くないですか?アイデンティフィ(同一のものであると認めること)という…。

:まさに。量子的な理由ってのは1個、当然あるのだと思います。だから、固定コンピュータにおける確率分布は、やっぱり限られてるので。なので、そういう限界はあると思います。

:日本のメディアって馬鹿だから、東大理三を受かった時点で、天才とか言いがちじゃん。

:日本人は圧倒的に人を褒める力は弱いです。褒めることができないというか、心の底からすごいって思えてない。尊敬することができない。

:コンピューターサイエンスって理論的にわかったことを再現する領域だ、というふうに思ってる人も多いと思うんですけど、ChatGPTのAIに関してはパラミター数をワっと出してたら、いきなり相転移のように出来ることが増えたんですね。だから、実験科学になったと思うんですよ。

【感想(前編)】

はじめなんとなく見て面白かったけれど(特に北川さんのキャラクターを知るところ)、テキスト化すると内容の面白さをより味わうことができました。つくづく人は人を見ているのだなあ、と感じます。

また、振り返るたびに違った見方ができるかもしれません。

茂木先生がときどき英語を混ぜるのは専門性が高すぎると思いましたが、視聴ターゲット層がテック&ビジネス系だからか、対談相手が北川拓也さんだからかもしれません。茂木さんや北川さんの話をリアルタイムで理解できるようになるのは、いつになるのだろう…。

「天才の安売り」や「子ども全員、灘から東大理三に受からせたママ」など、視聴率を狙うワードを織り交ぜているのは一般視聴者層を意識してるのでしょうか。もしかしたら、非日常性を意識しているのかもしれません。この対談には確かに、強い非日常感があります。

「バズったら良いな(茂木先生)」というニュアンスも感じましたが、専門性が高すぎる話題は一般の人には少し難しいかもしれません。それでも、経済学者 成田悠輔先生のツイートを思い出します:

「現代の知識人は、素人(アマチュア)であるべきである。アマチュアリズムは、利益とか利害に縛られるのではなく、狭い専門性をありがたがるのでもない。社会の中での憂慮とか愛着によって動く思考活動である。(エドワード・サイード『知識人とは何か』より)

by 成田悠輔氏 twitter

ただ、なんとなく見ているだけでも楽しめます。人は話の内容ではなく、時折挟まれるキャッチーな言葉やリズム、出演している非日常のキャラクターを楽しんでいるのだと再確認しました。

北川拓也さんには成田悠輔先生に似たおもしろさを感じます。これは何なのでしょう?人間力なのか、知的好奇心をくすぐる脳への作用なのか、社会的地位を持った人とのつながりを(脳内で)得たい帰属願望的な人間の本能なのか…。

一方で、誰にでもわかりやすい、刺激は少なくても興味深いお話をされる方のすごさも思い起こさずにいられません。

茂木先生もすごいですが、「わかりやすく」伝えることは難しいと感じます。茂木先生は、わかりやすく伝えることはもしかしたら数年前より少し難しくなっているのかもしれません。

歳をとることは一般的に少しずつ何かの機能が落ちていくことですが、知識量は誰にも負けないという茂木先生の姿勢には敬意を感じます。頑張っている姿を見せてくれるのだと思います。

ふと、成田悠輔先生は老年になったら若くてすごい人の話を聞く役割になる、そのための準備をしているのかもしれない、と感じました。

知識人のお話は、自分がなんとなく感じていることを、これから悩まずに実行するための素晴らしい指針となります。そういえば、予防医学研究者 石川善樹さんを初めて見たときもそう思いました。そして今も、日々感じることに感謝しています。

現代美術家の村上隆さんが「アーティストの目的は人の心の救済」と書いていましたが、知識人の皆さまも心の救世主であり、心の成長を助ける先生だと思っています。

「みんなの脳を統計的に学習していく、って話になるんだけど、その方向性とインディビジュアリティー(個性)って違う気がして。」という、茂木さんの問いかけはどこへ向かうのでしょうか・・? 神のみぞ知る・・

PIVOTレポート 茂木健一郎氏vs北川拓也氏 後半はこちらです。
» 【日本人と天才論】

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